経営者として日頃、毎日の仕事をしていく面で、従業員の有給休暇を取る内容や時期、手段等で悩むことが時々あると思います。有給休暇は労働基準法という法律で決められていますので、法令を順守するということと従業員が仕事の合間のリフレッシュをしてもらう手段としては大切な運用方法だとも理解しているでしょう。
それでも会社の繁忙期に休んでもらうのは困るというのが正直なところでしょう。そのような場合に「計画的付与」という制度を一度考えてみましょう。
1. 有給休暇と計画的付与
有給休暇は、従業員が継続勤務していく日数や出勤率によって法律上当然に発生する権利とされています。その有給休暇を従業員に付与する方法として、「計画的付与」という方法があります。
1−1.有給休暇の日数
経営者は、従業員に対して雇用した日から6か月間継続して勤務した者には、会社の労働日とされている日数の8割以上出勤していた場合として10労働日分の有給休暇を与えないといけません(労働基準法39条)。
この労働日というのは、その会社で就業規則等によって決められた日のことをいいます。ほとんどの企業では年間の休日カレンダー等を毎年作成していることでしょう。この有給休暇日数は、最初に10日分を与えたあとは、1年間ずつ増えていくことになっています。
- a)継続した勤務日数が6か月の場合、10日
- b)1年6か月の場合、11日
- c) 2年6か月の場合、12日
- d) 3年6か月の場合、14日
- e) 4年6か月の場合、16日
- f) 5年6か月の場合、18日
- g) 6年6か月の場合、20日
この7パターンの有給休暇が勤務している従業員毎に発生することになります。最高20日の有給休暇を従業員に付与することになりますが、この有給休暇は2年の有効期間があります。ですからその年に消化しきれない場合には翌年も繰り越すことができますので最大で40日間もの有給休暇を会社として従業員に付与することになってしまいます。
正社員以外のパートタイム労働者と呼ばれる方達にも実は有給休暇を付与しなくてはなりません。知らなかったでは済まされないのですが、法律上決まっていて本当の話なのです。
正規で採用している従業員よりも労働時間数が少ない場合があるのに10日以上もの有給休暇を与えないといけないのかと判断してしまいそうですが、パートタイム労働者には「比例付与」という方式で有給休暇の日数を計算していきます。
(例)週の所定労働日数が4日以下で、30時間未満のパートタイム労働者に比例付与による有給休暇を付与するとします。
勤続6カ月の場合には、正社員10日×4日/5.2日=7.6日=7日と計算されます。
(5.2日は計算式の数値で変更されません)
週の所定労働日数が4日を超えて働いているパートタイム労働者の場合には、8割以上の勤務日数に該当しますので通常通りの10労働日分の有給休暇を付与することになります。
もうひとつ経営者側からすれば切ないのは、優秀な従業員が突然退職するという出来事でしょう。そのような場合に辞めていく従業員は周りのスタッフに引継ぎをすることもなく、まるまる40日間の有給休暇をするというパターンが生じるかもしれません。突然辞める従業員というのは円満に会社を辞める場合が100%ではありません。
不幸にも去っていく従業員の自己都合で会社を辞める場合には、引継ぎをしないでいく輩もいることでしょう。そのような従業員は有給休暇を消化することしか頭になく、引継ぎという基本的なルールをせずに去ってしまうかもしれません。有給休暇は法律で守らない制度であることはわかっていても、これでは会社の経営が立ち行くことができなくなってしまいますね。
1−2.計画的付与とは
1年間に決められた有給休暇を与える方法を「年次有給休暇」と言います。それ以外に時間単位で有給休暇を付与する方法もあります「時間単位年休」。これからお話する計画的付与は、年次有給休暇を採用している場合のみにこの制度が利用できます。
この年次有給休暇で10日から20日の付与が与えられますが、経営者からすれば仕事の繁忙期ではなく閑散期に休んでもらいたいというのが正直な気持ちでしょう。そのような計画的な日程で従業員に有給休暇を与える方法を「計画的付与」と言います。
計画的付与には3つの方法があります。
- 一斉付与・・・その会社全体で休業する付与日を定めます。
- 班ごとの交代による付与・・・グループごとに付与日を定めます。
- c人ごとによる付与・・・計画表を作成して各々個人での付与日を定めます。
2. 中小零細企業は計画的付与制度を活用するべき
「一斉付与」・「班ごとの交代付与」・「個人ごとの付与」と3パターンある付与方式のうち、中小企業向けに代表的な一斉付与方式で説明していきます。この計画的付与を従業員に実施する場合には、いくつかの条件があります。
まずは従業員の代表と労使協定を締結します。この労使協定は、他の協定のように所轄の労働基準監督署に提出する義務はありませんが、協定の内容が従業員にとってはデメリットと感じてしまうことが多く、従業員代表との交渉が大変になると思われます。
そのような場合でも「本来有給休暇を取りづらい環境であった従業員もいると思う。ここで会社側から計画的に付与することによって社員全員が有給休暇を取得できる環境に押し上げていくのだよ。」と労使協定時に従業員代表者と交渉していくのがベストでしょう。
次に1年間の計画的付与日の決定です。5日を超える部分を会社サイドで決定することができます。その場合、会社の繁忙期を避けて閑散期に付与する方法がよろしいでしょう。そしてさらに国が定めた「祝日」を付与日にすることも可能となっています。
経営者側も従業員代表者側も一瞬躊躇する祝日付与方法ですが、祝日に仕事で出社する従業員もいることでしょう。会社の労働日というのは、その会社が決めた労働日であって日曜祝日にとらわれないということは再度認識してもらう必要があります。他の会社でも計画的付与日として祝日を取り入れているということも説明することで労使協定の合意をしていきましょう。
ネックになってくるのは、10日付与されている従業員もいれば20日付与されていて更に年度繰越して最大40日も保持している者もいます。有給休暇20日保持している従業員にあわせますと15日の計画的付与日を会社で決定することができて、残りの5日間を従業員が自分で自由に決定することができます。
しかしながら10日しか有給休暇がない従業員からすれば5日分の存在しない休暇が発生することになります。そのような場合には特別の有給休暇を与える制度にすることで他の従業員と同じ環境になります。
また就業規則を変更する必要が発生します。退職時に貯まった有給休暇を消化する従業員が少なからずいると思います。そのような対象者を削減する為に就業規則の条文に、退職時に引継をしないでいく者には退職金支給に減額する場合があると明記するのです。これによりまとまって有給休暇を消化する従業員は減るでしょう。
3. 計画的付与制度と労使協定
年次有給休暇での計画的付与というのは、会社で計画的に有給休暇の日を決定するので従業員の皆さんは休んでリフレッシュしましょうという考え方にあります。ゴールデンウィークやお盆、年末年始休日の前後に従業員へ一斉に付与する方法もあります。
会社の繁忙期を避けて閑散期に付与するという場合もあります。そして祝日に計画的に付与するという方法もあるのです。労働する日は会社側が決めることができます。日曜祝日は会社が当然休みだと考えているのは従業員だと思いますが、サービス業の場合は日曜日や祝日の方が繁忙期だってあるのです。
そのような様々な会社の事情を勘案して、経営者としての考え方を従業員代表にうまく説明して計画的付与制度の労使協定を結んでみましょう。
4. まとめ
日本は有給休暇の取得率が極めて低いと言われています。50%前後という低い取得率は日本の勤勉さもさることながら、その会社の有給休暇を取得してはいけないという環境もいけないのかもしれません。
年次有給休暇の計画的付与によって経営者が5日を超える休日を指定することによって取得率の向上にもなりますし、従業員からみても計画的付与以外は自分で自由に決められるという有給休暇を取得しやすい環境であることを認識してくれることでしょう。
計画的付与によって、法律上決められている有給休暇の日数を経営者として従業員に付与していることになりますので臆することなく労使協定を従業員代表として正々堂々と経営者の考え方を述べることによって正当な有給休暇制度を会社に浸透させていきましょう。