フレックスタイム制は、労働者にとって大変魅力的な制度です。また、企業にとってもフレックスタイム制を導入すると残業代の支払いが軽減されるということもあり、導入を検討している経営者の方も多いことでしょう。
しかし、導入を決定する前に、この制度のメリット・デメリットについてしっかりと確認しておく必要があります。ここでは、フレックスタイム制のメリット・デメリット、さらに導入時における注意点などについてご説明します。
目次
1. フレックス制とは
従来の労働の在り方は、例えば「9時始業で18時に終業」といったような画一的なもので、個人の能力を効率よく十分に発揮することが難しいケースもありました。
さらに近年、労働者の価値観やライフスタイルが多様化してきたことに加え、様々な業種が出てきたこともあり、これらに対応できる労働スタイルが求められるようになっています。
フレックスタイム制は、このようなニーズに応えるべく制定されたもので、労働者のライフスタイル・ワークスタイルに合わせた効率的な労働を可能にする制度です。
1−1.どんな仕組み
では、具体的にフレックスタイム制とはどのような仕組なのか、ご説明します。
「フレックスタイム制」では、1ヶ月を上限とする一定期間内(「清算期間」という)の「総労働時間」をあらかじめ定めておき、その範囲内で各労働日の労働時間を労働者が自ら決定して働くことになります。
清算期間とは、「労働者が労働すべき時間を定める期間」のことをいい、1ヶ月以内と決められています。通常、賃金の計算期間に合わせて、1ヶ月とするケースが多いです。
フレックスタイム制は、出勤・退勤時間に自由度が出てくる働き方ですが、一般的には、必ず勤務していなければならない時間帯(コアタイム)とその時間帯のいつ出社・退社してもいい時間帯(フレキシブルタイム)に分けて運用されているようです。
◇コアタイム
必ず出勤していなければならない時間帯です。コアタイムの始まる時間に出勤していないと遅刻となり、終わる前に帰ってしまうと早退になります。
通常、会議や外部関係の業務がある場合はコアタイムに設けることにします。しかし、コアタイムは必ず設置する必要はありません。
◇フレキシブルタイム
コアタイムの前後に設けられる時間帯で、いつでも出勤・退勤することができる時間帯です。また、フレキシブルタイムはコアタイムの前後に設けることが必要で、前後どちらかに設けるということはできないので注意が必要です。
1−2. 残業代はどうなるの!?
フレックスタイム制は、勤務開始時間や終了時間を自由に選べるという柔軟性のある制度であるため、「フレックスタイム制が導入されると、残業代が支払われなくなる!」という誤った認識を持ってしまう方も少なくありません。
しかし、フレックスタイム制でも、「総労働時間」を超えて労働した場合など、残業代が発生することがあるため、各労働者の労働時間について適切に把握する必要があります。
ただし、この「総労働時間を超えた時間」というのは、法定時間内の残業とそれを超えた法定時間外の残業とに分かれ、賃金の割増率が異なるので注意が必要です。
残業代の算出方法は、「1日8時間を超えた分が残業」となる通常の方法とは異なり、少々煩雑になります。フレックスタイム制の導入において、最もトラブルになりやすいのが残業代の支払いであるため、適正な処理を徹底することが大切です。
また、残業の取り扱いに例外もあります。例えば、清算期間を1ヶ月と設定している場合で、1週間の労働時間が40時間以下であっても、カレンダー上の曜日の都合上または労働日の設定などで法定労働時間を超過してしまうことがあります。
この場合、1週間40時間の枠を超過していないのに残業代を発生させるのは法の均衡を保持する上で適切でないため、残業としては取り扱わないこととされています。
1−3. 中小企業の導入率が気になる
フレックスタイム制を導入した企業がどのくらいの割合なのか、気になるところです。
【導入率の推移】
フレックスタイム制を導入した企業は、毎年5%前後で推移しています。平成18年には6.3%と最高値を出していますが、年々少しずつ減少し平成27年には4.3%という結果が出ています。
このことから、フレックスタイム制は話題性もあり人気がある制度ですが、導入している企業が減少しつつあるという事実が見えてきます。
【従業員数が多いほど導入率が高い】
厚生労働省発表の「平成27年就労概況時間制度」によると、以下のように従業員数が多い企業ほどフレックスタイム制を導入している傾向にあることが分かりました。事業規模が大きいほど部署も多く設置され、その一部の部署でフレックスタイム制を導入しているケースが多いと考えられます。
従業員数 | 導入率 |
---|---|
1,000人以上 | 21.7% |
300~999人 | 13.2% |
100~299人 | 6.9% |
30~99人 | 2.2% |
<参考:厚生労働省「H27年就労概況時間制度」>
フレックスタイム制を導入している企業は、全体の5%前後を推移していて年々減少している傾向にある上に、導入している企業は従業員数の多い企業が多いことを考えると、中小企業において導入はあまり進んでいないといえます。
【導入の多い業種・少ない業種】
フレックスタイム制の導入が多い業種や少ない業種について見てみましょう。
◇導入の多い業種
- 1位:情報通信業・・・・・・・・・・・・・17.0%
- 2位:複合サービス事業・・・・・・・・・・14.4%
- 3位:学術研究、専門・技術サービス業・・・13.7%
1位の情報通信業(IT)は、設立の新しい企業が多く、業務内容もフレックスタイム制を取り入れやすい業種といえます。
◇導入の少ない業種
- 1位:生活関連サービス業、娯楽業・・・・・0.6%
- 2位:教育、学習支援業・・・・・・・・・・1.9%
- 3位:建設業/医療・福祉・・・・・・・・・・2.0%
導入の少ない業種は、1日の稼働時間が長く土日も労働する業種が多く見られます。業務内容上、シフト制のような変形労働時間制を採用している企業が多いようです。
2.フレックス制のメリットデメリット
フレックスタイム制は、労働者にとって多くのメリットがありますが、企業側にとっても次のようなメリットがあります。
【フレックスタイム制導入のメリット】
1).無駄な残業が減るため、残業代の支払い負担が軽減される
従業員の業務内容や量は、日によって異なります。従って仕事が少ない日は定時まで時間を潰すことになり、逆に多い日は残業することになります。
フレックスタイム制では、仕事の量に合わせて、少なければ早めに退勤し多い日にその分の時間を回して使うことができるため、効率的に業務を行うことができます。企業にとっては、その分残業代の支払いが軽減されます。
2).生産性の向上につながる
フレックスタイム制が導入されれば、仮に前日遅くまで業務を行っていた場合、翌朝は出勤を遅らせることもできるため、個人の判断や体調によって無理のない勤務が出来るようになります。
このように、労働者のライフワークバランスが整えられると企業としての生産性を向上させることにもつながります。
3).求人の際のアピールポイントになる
フレックスタイム制は、労働者にとって大変魅力のある制度です。そのため、この制度を取り入れているということは、求職者への効果的なアピールポイントになります。
また、フレックスタイム制を有効活用できるような有能な人材を確保することができれば、企業の生産性もアップすることになるでしょう。
【フレックスタイム制導入のデメリット】
フレックスタイム制は、労働者にとって自由度のある制度であるがゆえに、デメリットもあります。
1).従業員間のコミュニケーションが不足しがちになる
通常の業務形態では、従業員全員が同じ時間帯に勤務しているため、従業員同士のコミュニケーションを問題なく取ることができますが、フレックスタイム制では、それぞれの従業員で出勤・退勤時間が異なるため、どうしてもコミュニケーションが不足してしまいがちです。
コミュニケーション不足は、従業員間のトラブルの原因にもなりますので、業務に悪影響を及ぼす可能性も否定できません。
2).取引先などとの連携が難しい
フレックスタイム制では、社内にいる時間が通常の業務形態よりも限られてしまうため、取引先や外部関係との連絡・連携が多い業務には不向きといえます。
3).「自由さ」に甘える従業員が出てくる
フレックスタイム制は、従業員が勤務時間をある程度自由に決められるものではありますが、その「自由さ」に甘えてしまう従業員が出てくることもあります。自由さばかりに目が行き、責任のある業務ができないようであれば、賃金カットなどを検討することができます。
3. フレックス制の導入手順
フレックスタイム制の導入にあたっては、就業規則にフレックスタイム制の導入についての規定をすることと、労使協定において制度の基本的な枠組みを定めることの2つが必要となります。
【就業規則への規定】
フレックスタイム制を導入する際には、就業規則(またはそれに準ずるもの)に「始業及び終業の時刻を従業員の決定に委ねる」という文言を明記しなければなりません。始業・就業時刻は、就業規則において絶対的必要記載事項にあたるため、忘れずに行いましょう。
【労使協定を締結】
フレックスタイム制の基本的な枠組みについては、労使協定で定める必要があります。労使協定は労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者と締結します。
労使協定で定める事項は、次のとおりです。
- 対象となる労働者の範囲
フレックスタイム制は、必ずしも全ての労働者に適用する必要はありません。個人やグループ、部署ごとに対象とすることもできます。対象となる労働者の適用範囲については、よく話し合った上で明確に定めることが大切です。 - 清算期間・起算日
清算期間は、1ヶ月以内で任意に設定することができますが、一般的には賃金の計算と合わせて1ヶ月とすることが多いです。また、「毎月1日」というように起算日も定めておくと、清算期間をより明確に把握することができます。 - 清算期間における総労働時間
総労働時間は、清算期間を平均して算出した1週間の労働時間が、法定労働時間の範囲内になるように定める必要があります。 - 標準となる1日の労働時間
標準となる1日の労働時間を定めておくと、有給休暇を取得した際に、それを何時間分の労働として計算するのかが明確になります。 - コアタイムとフレキシブルタイム
コアタイムは必ずしも設定しなければいけないものではありませんが、設定する場合には、労使間で開始・終了時刻を定める必要があります。また、フレキシブルタイムの時間帯に制限を設ける場合も、開始・終了時刻を定める必要があります。
4.知っておきたいフレックス制の注意点
フレックスタイム制の導入に際して、次のような注意点が挙げられますので確認しておきましょう。
【対象従業員にフレックスタイム制について周知する】
企業はフレックスタイム制の対象となる従業員に対して、就業規則などでフレックスタイム制について周知することが必要です。
【18歳未満の従業員は対象外】
労基法第60条により、満18歳未満の年少者はフレックスタイム制の対象者にはなることはできません。
【休憩時間を設ける】
フレックスタイム制においても、休憩時間は設けなければなりません。コアタイムを設けている場合は、原則としてコアタイムの時間帯に設けます。
【業務に支障をきたさないよう一定の制限を設ける】
必要に応じてコアタイム・フレキシブルタイムを設けて、業務に支障をきたさないようにしたり、従業員間でコミュニケーションを取れるようにします。
【新たな進捗管理の方法を検討する】
メリットの章でも触れましたが、フレックスタイム制の自由さから、勤務態度がルーズになってしまう従業員も出てくるかもしれません。従業員一人一人の業務を把握しやすいような、新しい進捗管理の方法を検討する必要があります。
5.まとめ
フレックスタイム制は、労働者にとってメリットのある制度と認識されていますが、企業側にとっても残業代の削減効果や優秀な人材の確保などのメリットがあります。しかし実際に導入する際には、注意すべき点もあります。
従業員が、自由さゆえにルーズな勤務態度にならないよう、フレックスタイム制を導入する意義を周知徹底する必要があります。また、導入後業務に支障が出ないかどうか、事前に細かく確認しておくことも大切です。
フレックスタイム制は人気のある制度です。制度をよく理解した上で導入し、企業の生産性向上のためにも上手に利用していきたいものです。