労働基準法を違反するとどんな罰則がある?分かりやすい事例を紹介!

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労働基準法は、使用者と労働者の双方が守るべき法律ですが、定められている内容については詳しく分からないという方も少なくありません。経営者にとっては、労働基準法に違反してしまうと、どのような罰則があるのか、会社にとってどのようなリスクがあるのか、気になるところです。

ここでは、労働基準法違反の具体的な事例をもとに、その対策を考えていきたいと思います。

1.労働基準法について

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労働基準法は、使用者と労働者が労働契約を結ぶ上で、労働条件の最低基準を定めた最も基本的な法律で、1947年に制定されました。労働契約の締結に関しては、どうしても労働者が弱い立場になりがちです。

民法で契約の自由は保障されてはいますが、実際には弱い立場の労働者が使用者と対等に契約を結べるように、労働者を保護するために制定されました。

労働基準法は、労働条件の最低基準を決めたものですので、仮に労使間で結ばれた労働条件が労働基準法に反していれば、その最低基準に満たない部分は全て無効になり、労働基準法で定める基準が適用されることになります。

【労働基準法の適用範囲】

日本国内にある事業に適用され、職種や国籍に関係なくすべての事業者に適用となります。正社員だけでなく、契約社員、パート、アルバイト、派遣労働者も対象となります。また、知らない方も多いのですが、日本国内にある外国人経営者の会社や外国人労働者にも適用となります。

【労働基準法の内容】

労働基準法で定められている内容は、次の事項です。

労働条件の明示

  1. 解雇予告について
  2. 賃金支払いについて
  3. 労働時間について
  4. 休憩について
  5. 休日について
  6. 時間外・休日労働について
  7. 時間外・休日および深夜労働の割増賃金について
  8. 有給休暇について
  9. 就業規則の作成について
  10. 制裁規定の制限について
  11. 周知義務について

労働基準法は罰則のある法律のため、違反行為があった場合は、罰金刑や懲役刑の刑事罰が科せられる可能性があります。

 1−1.どんな罰則がある?

労働基準法には、各規定に違反した場合の罰則規定が定められていて、罰金から懲役刑まであります。罰則の種類と主な違反項目は次のとおりです。

  • 罰金30万円
    労使協定の届出違反、就業規則の作成・届出違反などがあった場合
  • 懲役6ヶ月または罰金30万円
    残業手当の不払いや有給休暇の拒否、解雇予告違反などを行った場合
  • 懲役1年または罰金50万円
    中学生を働かせたり、年少者や女性に坑内労働をさせたりした場合

このように罰則が定められていますが、違反すると即罰則となるわけではありません。多くの場合は、労働基準監督署より違反を是正するよう指導する「是正勧告」が出されます。

この是正勧告は強制力のあるものではありませんが、違反状態は早急に是正する必要があります。

1−2. 罰則により会社が被るリスクとは

近年、労働者の権利意識は向上の一途をたどり、それに伴い労使間のトラブルも年々増加しつつあります。中でも、最も多いトラブルの1つに「残業代の未払い」があります。この残業代の未払いに関するトラブルが発生した場合の、会社が被る4つのリスクについてご説明します。

【労働者が労働基準監督署へ駆け込む】

トラブルが発生すると、使用者が最初に心配するのが「労働者が労働基準監督署へ駆け込むこと」ではないでしょうか。労働者からの訴えを受けて、是正勧告書や指導票などが交付されます。

これらに強制力はありませんが、早急に対応する必要があります。残業代の不払いが悪質なものと判断されてしまうと、労働基準監督官によって逮捕・送検されてしまうケースもあります。

【遅延損害金の支払い】

未払い残業代関係のトラブルは、労働者が退職した後に起きることが多いです。退職後の未払い残業代を請求する際には、法律によって年14.6%の遅延利息がついてしまいます。

仮にトラブルが裁判にまで発展してしまうと、解決するまで長い時間がかかることも少なくありません。請求金額が大きいほど遅延損害金の額も大きくなってしまいます。

【付加金の支払い】

付加金とは、仮にトラブルが裁判にまで発展した際に、裁判所が使用者に対して、従業員に対する未払い残業代と同額の金銭の支払いを命じることができるものです。注意していただきたいのは、この付加金は国に治めるべきものではなく、労働者に支払うものだということです。

例えば、労働者から200万円の未払い残業代の請求を受け、それを裁判所が認め、かつ付加金の支払いを命じると、使用者は労働者に対して合計400万円を支払わなくてはなりません。近年、付加金の支払いが命じられることが増えつつあるため、注意が必要です。

【同類の訴訟の連鎖の恐れ】

使用者にとって、これが最も脅威的といえるリスクです。複数の労働者が同時に退職し、同時に未払い残業代を請求してきたとすると、その請求金額の合計はかなりのまとまった金額になります。会社の規模にもよりますが、1,000万円を軽く超えることも考えられます。

何の生産性も無いことに多額の経費をかけることは、会社の経営自体にも大きな影響を与え、経営がつまづく可能性も否定できません。また、このような事態は使用者に大きな精神的ダメージを与えてしまう恐れもあります。

このような事態が起きると、会社に様々なリスクがあることを改めて認識し、トラブルを回避する手法を探っていくことが大事だと言えます。

2.労働基準法違反の事例

では、実際に労働基準法に違反した事例を見ていきましょう。書類送検された事例は、「賃金不払い」や「労働時間」に関するものが多いため、ここではその2つの例を見ていきます。

2−1.ケース1

【残業代の不払いを行った会社を書類送検】

  • スーパーマーケット経営会社の代表取締役が、経営するスーパーマーケット2店舗において、2ヶ月間32名の労働者に法定労働時間よりも延長して労働させたが、割増賃金の合計654万3,783円を支払わなかった。
  • 管轄の労働基準監督署労働基準監督官より、割増賃金の不払いにおける是正指導を受け、その結果を報告するように求められていたが、代表取締役は部長Aと課長Bと共謀して、実際には残業代の支払いをしていないにもかかわらず、「71名の労働者に不払いであった割増賃金2,710万0,821円を遡って支払った」という虚偽の内容の是正報告書を提出した。

-労働基準監督署の対応-

事業者に対して、労働時間の管理を適正に行うこと、賃金不払い残業をさせないことを重点とした監督指導を行った。

しかし、是正指導を受けても改善しようとする姿勢が認められず、賃金不払い残業も繰り返し行われ、さらに労働基準監督署に虚偽の内容の報告を行うなど重大な悪質行為を行ったため、書類送検を含めた厳正な対処を行った。

2−2.ケース2

【違法な長時間労働を課した業者を書類送検】

製本業を営む会社及び代表取締役は、5ヶ月間8名の労働者に対して、労働基準法第36条に定められた時間外労働に関する協定(36協定)での延長時間が1ヶ月で42時間、特別条項を適用する際には1ヶ月に100時間と定められているにもかかわらず、1ヶ月の労働時間が法定労働時間をはるかに超えて、最短でも104時間、最長で190時間の違法な時間外労働を課していたことが明らかになった。

-労働基準監督署の対応-

当該製本業者に対して、臨検監査を複数化にわたって行った結果、36協定の延長時間をはるかに超える長時間労働の実態を把握し、その都度是正するよう求めていた。しかし、違反状態が解消されることがなかったため、労働基準法違反として書類送検した。

3.労働基準法違反にならないために

労働基準法は、よく「労働者の権利を守るためのもの」と言われますが、使用者にとっても労働者に健全な労働環境を確保できているかどうかを判断するための重要な基準であるといえます。

また、労使関係のトラブルに対処していくためにも、労働基準法を正しく理解し違反状態にならないように注意することが大切です。そこで、労働基準法違反にならないために、使用者が注意すべき重要な6つの点についてご説明します。

3-1.労働条件を明示する

労働者を雇い入れる際には、賃金や労働時間などの労働条件について明示する必要があります。後に認識の違いからトラブルにならないように、お互いの同意がとれるまで確認することが大切です。

また、労働者を解雇する際には、少なくても30日前にはその予告をしなければいけません。労働者が解雇または自分の意志で退職した際に、業務の内容や携わった期間、退職理由などについての証明書を依頼される場合があります。

請求があった際は、速やかに書類を交付するようにしましょう。労働時間に関する記録は、最低3年間保存することが義務付けられていますので、注意しましょう。

3-2.賃金支払いの5原則を守る

支払いの5原則とは、「賃金は、『通貨』で『直接』労働者に、その『全額』を支払わなければならない。さらに、『毎月1回以上』『一定の期日』を定めて支払わなければならない。」というものです。

いかなる理由があっても、使用者の都合で当月分の賃金を延滞するというようなことは許されません。また、賃金支払い日は「毎月25日」など、最低でも月に1回以上、一定の期日を定める義務があります。

賃金については、各都道府県ごとに定められている最低賃金を把握し、基準以下にならないように注意が必要です。

3-3.労働時間を適正に管理する

労働者の勤怠管理を徹底させることも大切です。法定労働時間を超えて労働させたい場合には、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければいけません。時間外労働をさせたい場合は、割増賃金を支払う必要があります。

深夜や休日の労働についても、どのような計算方法になるのか理解しておくことも大事です。また、労働者の休暇の取得状況についても適宜確認をするようにしましょう。法律で定められた休日(週に少なくても1日、4週間で4日以上)なども確認しておくことが大事です。

長時間労働は、労働者にとって肉体的・精神的に大きな負担になるほか、使用者にとっても責任の追及、労使間トラブルなど大きなダメージを受ける元になりかねません。

3-4.労働者の安全と健康を確保する

「労働安全衛生法」は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を作ることを促進させるために制定された法律です。この法律によって、使用者は条件に該当する労働者に、雇用時健康診断と年に一度の定期健康診断を受けさせる義務があり、逆に労働者には受診義務があります。

3-5.年少者の雇用について注意を払う

年少者とは、満18歳未満の者を指し、その雇用については注意が必要です。原則として、中学生以下の者を働かせてはいけないことになっています。労働時間は、1週間に40時間まで、1日8時間までとされ、時間外労働や休日労働は基本的に禁止されています。

また、22時から翌朝5時の間の労働も原則として禁止です。注意が必要なのは、仮に本人の同意があっても、周りの労働者の暗黙の了解があっても、労働させてはいけません。法律違反になってしまいます。

3-6.就業規則を届け出る

労働者が常時10人以上いる企業は、就業規則を作成した上で、労働基準監督署に届け出なければいけません。就業規則には、業務時間、休憩時間、休日、賃金、退職に関する事項などを記載します。就業規則を作成したり、変更したりする場合は、使用者は労働者代表の意見を聞く義務があります。

また、労働基準監督署に届け出る際には、労働者代表の意見書を添付しなければいけません。ここでいう労働者代表とは、労働組合がある場合にはその代表者、ない場合には労働者の過半数を代表する者となります。

4.まとめ

労働基準法に違反してしまうと、罰金や懲役などの罰を受けることが定められています。しかし、違反していてもすぐに罰則が適用されるわけではなく、労働基準監督署から是正勧告を受けることになります。

その勧告を受け、早急に違反状態を是正し、違反状態であった事実を適正な状態に立て直すことが大事です。労働基準法に違反しないためには、労働条件を明示し、賃金の支払い原則を守り、労働時間を適性に管理したりなど、日頃からの心がけが大切になります。

労働者の快適な労働環境作りのため、そして使用者のリスク回避のためにも、もう一度労働基準法を見直してみてはいかがでしょうか?

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