【社長必見】固定給+歩合給の場合、標準報酬月額はどうなる?

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固定給画像

経営者にとって社会保険料の負担は大変深刻な問題です。できるだけ負担を抑えられるようにしたいものですが、「給与を固定給ではなく、固定給+歩合給で支払うと社会保険料の負担を軽くできないか」と考える経営者の方もいらっしゃるでしょう。

また、社会保険料を考える上で欠かせないのが「標準報酬月額」で、健康保険料や厚生年金保険料を算定する上でとても重要なものです。

ここでは、標準報酬月額について詳しくご説明していくとともに、「固定給のみの場合」と「固定給+歩合給の場合」とでは社会保険料にどの位の差が出るのか、モデルケースを用いて検証していきます。

  1. 標準報酬月額とは・・

標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金保険の保険料額や給付額を計算する上で基本となるもので、報酬額を等級ごとに区分して設定された額のことをいいます。

毎年7月に行われる定時決定で算出された標準報酬月額は、同年9月から翌年8月まで適用されることになりますが、報酬額が大きく変わった場合は随時改定で変更することも可能です。

 1−1. 標準報酬月額は社会保険料を計算するときに必要

標準報酬月額は社会保険料を計算する時に必要なもので、社会保険料は「標準報酬月額×乗率」で求めることができます。例えば報酬月額が29万円の場合は、標準報酬月額表で確認すると29万~31万円の区分の等級になり、標準報酬月額は30万円になります。

このようにして求められた標準報酬月額に保険料率を乗じて保険料を計算し、それを会社と従業員が折半で負担することになります。

標準報酬月額表は「全国健康保険協会 協会けんぽ(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150/h30/h30ryougakuhyou3gatukara)」で確認できますので、最新の表を利用して計算するようにしましょう。

 1−2.標準報酬月額に含まれる報酬

従業員に「労働の対価」として支払われるものには、基本給のほかに交通費や残業代などがあります。そして、標準報酬月額を算定する際に、どの報酬まで含めるのかで迷われる方は少なくありません。

実は、標準報酬月額の算出においては、基本給をはじめ交通費・残業代など、会社から支給される全ての報酬を含めて計算します。もちろん「歩合給」についても報酬に含めて計算することとされています。

よって、同じ基本給でも残業代が高いほど標準報酬月額が高くなり、同様に歩合給が高ければ高いほど標準報酬月額が高くなります。会社から金銭で支給するもの・現物で支給するものが標準報酬月額の「報酬」に含まれるのかどうか、主なものをまとめましたので参考にしてみてください。

【金銭で支給するもの】
報酬に含めるもの 報酬に含めないもの
基本給、能力給、奨励給、役付手当、職級手当、特別皆勤手当、勤務地手当、通勤手当、住宅手当、家族手当、扶養手当、日直手当、宿直手当、休職手当、残業手当、年4回以上の賞与(*) 見舞金、退職手当、解雇予告手当、大入袋、出張旅費、交際費、慶弔費、傷病手当、年3回以下の賞与(*)
【現物で支給するもの】
報酬に含めるもの 報酬に含めないもの
通勤定期券、回数券、食事、社宅・寮、自社製品など 作業着、制服、見舞品など

上の表の(*)にある賞与ですが、賞与は1年間に支払わる回数によって標準報酬に含まれるか含まれないかが分かれますので、次章でご説明します。

 1−3.賞与(ボーナス)の保険料の計算方法

賞与については、1年間に支給される回数によって標準報酬月額に含まれるか含まれないか、その取り扱いが異なりますので注意が必要です。

 【年間3回以下支給される賞与】
「標準賞与額」に対する保険料が徴収されることになるため報酬には含めない。

【年間4回以上支払われる賞与】
報酬に含めて計算する。

賞与が年間4回以上支払われる場合は報酬に含めて計算しますが、年間3回以下であれば、報酬に含めずに次のような別の取り扱いとなります。

 <賞与の保険料の計算方法>
賞与の場合は「等級」があるわけではなく、賞与額の1,000円未満を切り捨てた額(標準賞与額)に保険料を乗じて算出します。

 1−4. 標準報酬月額が決定する5つのタイミング

標準報酬月額が決定するのは、資格取得時定時決定随時改定産前産後休業終了時改定育児休業等終了時改定の5つの時期です。

では、5つの時期にどのような手続きを行うのか、それぞれ確認していきましょう。

  1. 資格取得時(雇い入れ時)
    従業員を雇い入れ社会保険に新規加入させたときに決定されるものです。資格取得時の報酬月額を基準にして標準報酬月額を決定し、その年の8月まで適用します。
  2. 定時決定
    毎年4月~6月の3ヶ月間の月額報酬の平均額を算出し標準報酬月額を決定して、その年の9月から適用します。注意点として、支払基礎日数が正社員で17日未満、短時間従業員で11日未満の月は除外することとされています。
    7月10日までに「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届」を年金事務所へ提出します。
  3. 随時改定
    昇給・減給などで報酬額が大きく変動する場合には、随時改定により標準報酬月額を変更することになります。報酬が大きく変動した月から連続した3ヶ月間の平均報酬額が現在の標準報酬等級に比べて2等級以上の差がある場合に変更となります。
    ちなみに、報酬額の大きな変動が例えば残業代のような非固定的給与のみの場合は随時改定の対象とはならず、基本給や通勤手当などの固定的な報酬に変動があったときが対象となりますので注意が必要です。
    随時改定に該当する従業員がいる場合は「健康保険・厚生年金被保険者報酬月額変更届」を社会保険事務所に提出します。
  4. 産前産後休業終了時改定
    産前産後休業を取得していた従業員が復職し、休業明け3ヶ月の月額報酬の平均額から算出した標準報酬月額が、休業に入る前のものと比べて1等級以上の差がある場合に、「健康保険・厚生年金保険産前産後休業終了時報酬月額変更届」を提出すると標準報酬月額を変更することができます。
    産前産後休業明けは労働時間を短くする従業員が多いため、標準報酬月額に変更がある場合が多く見られます。
  5. 育児休業等終了時改定
    育児休業等を取得していた従業員が復職した場合も同じように、休業明け3ヶ月の月額報酬の平均値から算出した標準報酬月額が、休業に入る前と比べて1等級以上の差がある場合に、「健康保険・厚生年金保険育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出することにより標準報酬月額を変更することができます。
    該当する従業員がいる場合は特に注意を払う必要があります。

 2. 固定給+歩合給の場合、標準報酬月額は安く出来る?

経営者にとって、社会保険料の負担は大変大きなものです。できるだけ負担を抑えるために歩合給を導入する方法がありますが、はたして標準報酬月額を安く抑えることは可能なのでしょうか?

ここでは、次の条件の従業員について、「固定給+歩合制」で算出した社会保険料と、固定給のみで算出した社会保険料がどのくらいになるのかモデルケースを用いてご説明していきます。

<従業員A>

  • 東京都の会社に勤務
  • 38歳 男性

2−1.モデルケース1 固定150000円+歩合給が各月によって異なる場合

従業員Aの4月から6月までの歩合給は次の金額とします。

<歩合給>
4月 5月 6月
280,000円 240,000円 140,000円

固定給が150,000円なので、各月の報酬額は次のように計算できます。

<各月の報酬額>
4月 5月 6月
430,000円 390,000円 290,000円

4月から6月の3ヶ月間の平均報酬額を求めます。

(430,000円+390,000円+290,000円)×1/3=370,000円

平均報酬額は370,000ということが分かりました。

これを東京都の標準報酬月額表にあてはめると、370,000円は370,000円~395,000円の欄に該当し、標準表集月額は380,000となります。

<東京都の標準報酬月額表>

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/h30/ippan/300313tokyo.pdf

標準表集月額380,000円の健康保険料と厚生年金保険料はそれぞれ次のとおりです。

健康保険料 厚生年金保険料
18,810円 34,770円

合計で53,580円を会社と従業員それぞれが負担することになります。

2−2.モデルケース2 固定400000円で歩合給なしの場合

次に、歩合制を導入せず固定給のみで400,000円の報酬の場合をみていきましょう。東京都の標準報酬月額表にあてはめると、400,000円は395,000円~425,000円の欄に該当し、標準報酬月額は410,000になります。

標準報酬月額410,000円の健康保険料と厚生年金保険料は次のとおりです。

健康保険料 厚生年金保険料
20,295円 37,515円

合計で57,810円を会社と従業員がそれぞれ負担することになります。ケース1と2を比較すると、固定給で毎月400,000円と決めるよりも歩合制を導入したほうが、社会保険料の負担は月々4,230円ずつ減らせることがわかります。

3. 出来るだけ社会保険料を安くする方法

社会保険料を安くするためには、「従業員の標準月額報酬を下げる方法」が効果的です。具体的には、標準報酬月額の計算は4月から6月の3ヶ月間の報酬額の平均額で決まるため、この3ヶ月間の報酬額をできるだけ少なくすることがコツです。

給与体系が固定給+歩合給である場合、固定給は調整することができませんので、歩合給の支払い額を抑えるための方策が必要になってきます。しかし、4月から6月までの報酬というのは、実際に労働する月でいうと3月から5月になります。

3月決算の会社では、3月に報酬を抑えるような働き方をするのはかなり厳しいといえるでしょう。しかし、仮に従業員も「社会保険料を少なくしたい」と考えている場合であれば、相談の上報酬の支払い時期をずらすなどの方法をとることもできるでしょう。

いずれにしても、4月から6月の報酬を少なくすることが一番効果的な方法といえます。

4.まとめ

固定給+歩合給という支払方法を導入し、社会保険料の負担額を少なくしたいのであれば、定時決定の元となる4月から6月の3ヶ月間の報酬額をできるだけ抑えることがポイントです。

また、社会保険料の負担を考える際には、標準報酬月額についての概要をしっかりと理解することが大切です。

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