給与の減額は違法?従業員の給料を下げる際3つの注意ポイント

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会社の経営が悪化した際には、経費削減などあらゆる対策をとり改善に向けて努力する必要がありますが、それでも状況が上向かない場合「従業員の給料を減額する」ことを考える経営者もいらっしゃるでしょう。

しかし、給料は従業員の生活を支える大切なものですので、会社の都合で一方的に減額することはできません。 従業員の理解・同意を得た上で慎重に行う必要があります。

ここでは、給料の減額はそもそも違法ではないのか、減額する際の注意すべきポイント手続き方法などについて詳しく解説していきます。

 1. 給与の減額は違法?

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従業員の給料を減額するケースは主に次の3つのケースが考えられます。

・懲戒処分による減給
就業規則で定められたルールに違反した場合に受けるペナルティで、減額の限度額は労働基準法で定められた金額になります。

・降格による減給
役職についていた方が降格したことにより、これまで支払われていた「役職手当」が支給されなくなると、その分給料が減額になります。

・経営悪化による減給
会社の経営が悪化したことにより給料が減額されることもあり、この場合の上限は法律で決められてはいませんが、過去の判例によると10%くらいが限度といわれています。

労働基準法第91条では、給料の減額について次のように定められています。

「就業規則に労働者の給料を制裁により減額する旨を定める場合は、減額は1回の額が平均賃金の1日の半分を超え、総額が1賃金支払い期における賃金の1/10を超えてはならない。」

つまり、労働基準法では制裁により減給する場合は、1回につき1日の平均賃金の半額までしか減額できず、制裁が複数回あった場合でも賃金総額の10%しか減額できないとされ、それ以上の減額は違法となりますので注意が必要です。

例えば給料が24万円の従業員の場合で考えてみましょう。

1ヶ月の給料が24万円なので1日あたり8,000円になります。

  • 1日分の減額上限:8,000円×1/2=4,000円
  • 1ヶ月分の減額上限:240,000円×10%=24,000円

よって、1日分では4,000円、1ヶ月分では24,000円が減額の上限になります。しかし、この労働基準法第91条は、「制裁による給料の減額」について定められたものであり、経営悪化による減給にそのままあてはまるものではないので注意が必要です。

制裁は従業員が就業規則に違反した場合に受ける処分であるため、従業員に非があることになりますが、会社の経営悪化による減額は従業員に非を求める性質のものではありません。 経営悪化による減給については労働基準法に特に定められてはいないため、実務上給料の減額は10%までとされているケースが多いです。

 2.従業員の給料を下げたい・・注意ポイントとは

従業員の給料を減額するためには、注意すべきポイントがあります。

  • 給料の減額には上限がある
  • 合理的な理由が必要
  • 社会保険料手続き

給料の減額は従業員に大変大きな影響を与えるため、注意すべきポイントを押えながら慎重に進める必要があります。

 2−1.給料を減額する場合には上限がある

前章ですでに説明しましたが、給料の減額には上限があり、会社が好きに決められるものではありません。従業員の制裁としての減額でさえ月に最大で10%であることを考えると、会社の経営悪化による減額はそれ以下に抑えるよう努力することが望ましいです。

また、経営悪化による減額の場合は必ず「従業員の同意」を得る必要があります。会社側の都合で一方的に給料を減額することはできず、必ず従業員の同意を得、後のトラブルを回避するためにも同意書を提出してもらうことが重要です。

 2−2. 合理的な理由が必要

従業員の給料を減額する際、一方的に不利益な変更はできないため、従業員の同意を得る必要があります。給料の減額は従業員に生活に大きな影響を与えるため、容易には納得してくれないことが多く、合理的な理由の元に丁寧な説明をする必要があります。

ここでいう「合理的な理由」とは、給料の減給はただ単に「業績悪化のため」というだけでは不十分で、「出来る限りの手を尽くしたがそれでも及ばず、やむなく給料の減額をするに至った」旨を客観的な数字を用いて説明するようにしましょう。

従業員の給料を減額する前に、人件費以外の経費削減をするのはもちろんのこと、役員報酬のカット、賞与の減額やカットなどの対策を行い、最終的な手段として給与の減額を行うと合理的な措置となり、従業員の同意も得やすくなるでしょう。

 2−3. 給料を減額した後の社会保険料手続き

従業員の給料を減額すると、社会保険料も変更になるケースがありますので注意が必要です。

減額されてから支払われた給料3ヶ月分(残業手当などの非固定賃金も含みます)の平均額により標準報酬月額と、減額前の標準報酬月額とで2等級以上の差が出た場合は「随時改定」を行います。(変動のあった月の基礎日数が3ヶ月ともそれぞれ17日以上あることが必要です。)

給料が減額されても社会保険料が減額前のものですと負担が大きくなってしまいますので、減額の際は必ず確認しましょう。

3.従業員の給料を減額する手続きの流れ

ではここからは、従業員の給料を減額する手続きの流れについて解説していきます。

流れとしては主に次の3つのステップになります。

  • 給料削減案」を作成し社員に周知する
  • 就業規則を変更する
  • 従業員に同意書を提出してもらう

では、それぞれの手続きにつて詳しくみていきましょう。

3−1. 「給料削減案」を作成し社員に周知する

給料削減案を作成する際には、削減後の給料が同じ業種で同等な規模の他社と比べ大きな差が出ないようにしたり、削減後の給料で通常の生活費をカバーできるかなど従業員の生活に支障を来さないよう配慮する必要があります。

給料削減案が作成できたら、従業員に向けて説明会を開催し、給料を減額せざるを得ない状況についてできるだけ詳しく丁寧に説明します。強く反対する従業員がいる場合は個別に説明するなど、できるだけ従業員に同意を得られるよう努力します。

3−2.就業規則を変更する

会社の経営が悪化により給料の減額をする場合は、就業規則や賃金規定を変更する必要があります。就業規則を変更する場合は労働基準監督署へ届け出る必要がありますが、その際労働者の過半数の代表者の意見を聴取し、書面化したものの添付が義務付けられています。

過半数の従業員が加入している労働組合がある場合はその代表者の、労働組合がない場合は従業員の過半数から選ばれた代表者の意見書が必要になります。その意見書は必ずしも代表者の「同意」を得ることまでは求められておらず、仮に反対意見であっても届出は可能です。

3−3. 従業員に同意書を提出してもらう

就業規則や賃金規定の変更が済んだら、従業員から個別に同意書を提出してもらいます。同意書には手当ごとの細かい変更金額や変更日などを記載し、従業員にも分かりやすい内容にします。

内容を確認し同意を得ることができたら「同意書」に自署してもらいます(従業員の氏名をあらかじめ印字してしまうと、会社が同意を前提に用意したと判断されることがあるため、自署してもらうのがベストです)。

これらの手順を踏んで給料減額を実施することになりますが、もし同意書がもらえない場合や同意している従業員が少ないという場合は後に大きなトラブルに発展する可能性がありますので、強行突破で実施するのは避け、できるだけ理解してもらえるよう努める必要があります。

4.まとめ

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会社の経営が悪化したことにより従業員の給料を減額すること自体は違法ではありません。しかし、減額する際は上限がありますので、それ以上の減額をすると違法になるため注意が必要です。

さらに、経営悪化による減額の場合は、従業員の同意を得ることが必須で、できれば一人一人から「同意書」を提出してもらうと後のトラブルを回避することができます。給料は従業員の生活に直結するものですので、減額にあたっては慎重に進める必要があります。

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