経営者は売上に始まり、資金繰りや節税、はたまた後継者問題まで、いつも様々のことを考えています。せっかく出した利益を税金にみすみす持って行かれないため、色々な情報を集め、知恵を絞っています。帳簿上の利益は減らしたいけど、財務内容は悪くしたくない。これがホンネですよね?そんなにうまい話はないものでしょうか?
ここで、「逓増保険」というキーワードが出てきます。普通の生命保険とどう違うのか、知っておくと上手に使えそうです。
目次
1. 逓増定期保険とは
1−1. 一体どんな保険
逓増とは自然に増えるという意味ですので、逓増保険とは死亡保険金がだんだん増えていく定期生命保険です。死亡保険金額は契約当初の最大5倍まで増加しますが、保険期間が満了すると、保険金額はゼロになる掛け捨ての保険です。
逓増定期保険は、企業向けに開発された保険商品です。企業の成長と共に、経営者の万が一の事態の時に必要になる経費・資金が増加することを見越して、必要な保険金額が自動的に増加していく形を取っています。
逓増保険の特徴は、解約返戻率に有ります。一般の生命保険に比べると、短期間で高い返戻率となっていきます。
1−2. なぜ節税効果がある?
逓増保険は一定の条件をクリアすれば保険料が全額損金算入できますので、節税効果が高い保険となっています。経理処理方法を次のように表にしました。
区分 | 保険料処理 | |
---|---|---|
前半6割期間 | 後半4割期間 | |
保険期間満了時の被保険者の年齢が45歳超 | 保険料の1/2資産計上、1/2損金算入 | 支払い保険料の全額損金算入、資産計上分の均等取り崩し分損金算入 |
保険期間満了時の被保険者の年齢が70歳超かつ加入年齢+(保険期間×2)が95以下 | 保険料の2/3資産計上、1/3損金算入 | |
保険期間満了時の被保険者の年齢が80歳超かつ加入年齢+(保険期間×2)が120以下 | 保険料の3/4資産計上・1/4損金算入 |
1−3.決算直前でも加入出来るって本当?
今期は営業成績が良く、相当の利益が出そうだと予測が付く時、利益を圧縮させるために、決算賞与を支給するなどして経費を膨らませる会社は多いと思われます。
多額の利益が見込まれる場合、支払った保険料の一部もしくは全額を損金処理できる逓増保険もその一つとして、決算前に加入しても問題は有りません。生命保険ですので、加入に多少の日数を要しますので、決算の準備段階から検討しておくと良いでしょう。
2.逓増保険での節税対策とその手順
ここからは逓増保険を利用した節税対策に関してです。
2−1. 逓増保険のリスク
逓増保険は、満期保険金の無い定期保険です。中途で解約すると保険料の先払い部分が解約返戻金として戻ってきます。この解約返礼率のピーク時を見極めて解約を行わないと、逓増保険を契約した意味が損なわれます。
大きく利益の出た営業年度を保険加入の入り口とすると、解約返礼率がピークの時が解約の出口になります。出口時の資金需要が決まっていず、節税になると勧められたからとりあえず加入した、といった安易な加入は課税の繰り延べにしかなりません。長期の事業計画に基づいた出口対策をしっかり立てて加入したいものです。
2−2. メリットデメリットを確認
逓増保険は法人においては、役員や従業員に対する保障を得られ、保険料の一部または全部が損金になるという節税効果のメリットがあります。また、節税できた分の資金は内部留保されますので、財務上のメリットも見逃せません。
デメリットとしては前項でも述べましたが、出口戦略をしっかり立てておかないと、課税の先送りでしかなくなり、せっかくの資金の有効利用が出来ないことにあります。決して安く無い保険料を支払いますので、財務計画にしっかり組み込んでおきましょう。
2−3. 逓増保険の加入手順
加入方法は通常の生命保険と大差は有りません。
- 保険料や解約返礼率、保障内容を確認し、加入する商品を選びます。
- 申込書にサイン・押印します。
- 健康診断を受診します。健康診断の結果によっては加入できないことも有ります。
- 年払い保険料を払い込みます。
逓増保険のメリットの一つである決算対策の加入の場合、1〜2週間見ておくと良いでしょう。
3. 逓増保険に向いているのは
3−1.こんな会社は逓増保険で節税
逓増保険の保険料は決して安い金額ではありません。保険の性格からして、1回保険料を払ってオシマイという訳でも有りません。これらのことを考えると、逓増保険の活用をお勧めできるのは、以下のような会社になります。
- 会社が成長中で、来期以降も今期同様の利益が見込まれる会社。
- 安定して毎年500万円以上の利益が出ている会社。
- 5年から10年の短期で確実に役員退職金を貯めておきたい会社。
- 税金対策と同時に経営者の保証を準備したい会社。
いずれの場合も加入する商品選びは慎重にしましょう。
3−2. 逓増保険で節税不向きな会社
逓増保険を使った節税は課税の繰り延べの意味合いが強いですので、解約返戻金の使い道がはっきりしていないと、結局保険料を支払っただけ損をするような事態になります。
ですので、次のような会社にはお勧めできないことになります。
- 設立3年目以下で税引き前利益が300万円以下の会社。
- 今期は大きな利益が出たが、来期以降の利益が見込まれない会社。
- 新規事業への投資などの予定が有り、今後のキャッシュフローの見通しが悪い会社。
こういった会社は、別の保険商品を検討した方が良いでしょう。
4. 逓増保険加入の注意点
さて、ここからは逓増保険に関する注意点をみていきましょう。
4−1. 加入の目的をはっきりさせておく
節税効果だけを目的に逓増保険に加入することがおすすめできないのは、第2項で述べたとおりです。役員退職に使うのか、設備投資の予定があるのかなど、加入の目的(出口戦略)をしっかり立てておきましょう。
また、保険料の支払いでキャッシュフローが窮屈になったり、保険料以上の利益が望めない年度は節税の効果もなくなります。そういう事態に陥らないために、事業計画が大事になってきます。
4−2. 商品によって保険料が全く違うことを理解する
どんな商品を選定する場合にも言えることですが、保険会社の職員の言いなりに商品を選ぶのではなく、何社か比較検討します。保険料も様々なら、解約返礼率の増減の仕方も商品によって様々です。自社の出口戦略と相談しながら、解約返礼率のピーク時に合わせた商品を選ぶのが賢い方法ではないでしょうか。
忘れていけないのは、損金算入率です。損金に算入できる割合も、保険満了年齢などの条件によって、1/4損金算入から全額損金算入まで有ります。ここでも長期経営計画の重要性が問われます。
4−3.加入できる保険金額に上限がある
個人で加入する生命保険も、保険金額と保障内容を検討し、保険料が決まります。逓増保険も保険金額から保険料が決まってきます。当期に大きな利益が出たからと言って、その金額の保険料の逓増保険に加入できるかと言えば、それは出来ないことが有ります。
保険会社にもよりますが設定できる保険金額の上限は、会社の年商までであったり、加入者の年収の15倍までなどとなっています。保険会社によって基準が違いますので、商品選びの時に確認しておきましょう。
5. まとめ
逓増保険は上手に利用すると、大変メリットの大きい保険商品です。しかしどんな場合もメリットとデメリットは背中合わせです。リスクを理解し、自社の財務内容を慎重に検討し、出口戦略を練って御社にとって一番適する商品を選んで下さい。