中小企業退職金共済制度のメリットとデメリット

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従業員の退職金制度を整備するのに、中小企業退職金共済の活用をお薦めします。中小企業退職金共済は、掛金が全額損金扱いなので、会社の税負担が軽くなります。

また、何事もなければ、着実に、支払った掛金よりも多くの額の退職金を準備することができます。会社は掛金を減額せずに支払い続け、従業員が一定期間勤務した後で退職するという前提の下に制度設計がされた退職金制度です。

1. 中小企業退職金共済制度とは

中小企業退職金共済制度とはどのような制度なのでしょうか?制度の概要を共済機構の資料より以下、抜粋します。

中小企業退職金共済制度(略称:中退共制度)は、昭和34年に国の中小企業対策の一環として制定された「中小企業退職金共済法」に基づき設けられた制度です。中小・零細企業において単独では退職金制度をもつことが困難である実情を考慮して、中小企業者の相互扶助の精神と国の援助で退職金制度を確立し、これによって中小企業の従業員の福祉の増進と雇用の安定を図り、ひいては中小企業の振興と発展に寄与することを目的としています。この制度の運営は、独立行政法人勤労者退職金共済機構(機構)中小企業退職金共済事業本部(中退共)が当たっています。中小企業に勤める従業員向けの退職金制度として、非常に手軽にかつ確実に積み立てが出来る制度として人気のある制度の一つです。

平成27年8月末時点では、約36万社・330万人が加入している制度です。中退共の特長としては、掛金の全額が損金として計上出来る事と、国の助成制度がある点です。

1−1.掛け金

中小企業退職金共済制度は従業員全員加入が原則です。

「資本金・出資金額」か「常時使用従業員数」のどちらかを充たせば加入できます。加入できる中小企業の範囲は、以下の表の「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する従業員数」のどちらかを充たしていれば、加入できます。

表1:中小企業の範囲(中退共パンフより抜粋、作成)
業種 資本金・出資金の総額 常時使用する従業員の数
一般業種 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
小売業 5,000万円以下 50人以下

掛金は16通り+3通りです。月々の掛金は、5,000円~3万円の範囲で、16通りのパターンから選ぶことができるようになっています。

1−2.加入手続き

加入手続は、事業主が加入申込をすると、共済手帳が交付を受け、掛金を銀行等の金融機関から振り込みます。申込用紙は金融機関や、委託事業主団体(商工会議所、TKC等)に用意されています。申し込みは銀行などの金融機関にて行えます。

ゆうちょ銀行・農協・漁協・ネット銀行・外資系銀行以外の金融機関または商工会議所など機構が業務を委託している団体に行けば、申し込み手続きを行うことが出来ます。また、中退共ホームページより請求することも可能です。

1−3.解約は可能?

何らかの理由により中退共による退職金積立を止める場合には、途中解約となります。ただし途中解約が出来るのは、従業員の同意が得られたときまたは掛金納付の継続が困難であると厚生労働大臣が認めたときに限りとされています。

そして解約金の全額は従業員に支払われることになり、事業主は受け取ることが出来ません。解約金を従業員が受け取った場合には、解約手当金は、税法上「一時所得」として取り扱われ、その年中に得たほかの一時所得と合算し、その額から50万円(特別控除額)を減じた残額が課税の対象とされます。(掛金は全額事業主負担ですので、差し引く額はありません。)

1−4.役員はどうなる?

事業主や小規模企業共済に加入している人は中退共に加入する事は出来ません。さらに法人の役員も加入出来ませんが、役員でも「使用人兼務役員」として、従業員として賃金の支払いが行われている場合には加入する事が出来ます。

2.中小企業退職金共済のメリットとデメリット

2−1.メリット

中小企業退職金共済には以下のようなメリットがあります。

2−1−1.従業員が24ヶ月間勤務すれば掛金総額を上回る退職金が積み立てられる

従業員に支払われる退職金の額は、大雑把に言えば、退職時期に応じて、変わりますが、24ヶ月目以降まで勤務すれば、確実に掛金総額を上回る額の退職金が積み立てられることができます。

表2:退職時期と支払われる金額

表2:退職時期と支払われる金額
退職時期 金額
0~12ヶ月目
12ヶ月後~24ヶ月目 掛け金総額未満
24ヶ月後~42ヶ月目 掛け金総額
42ヶ月後~ 掛け金総額より多い金額

尚、具体的に、いつ、いくら受け取れるかの詳細については、こちらを参照してください。

http://www.chutaikyo.taisyokukin.go.jp/sisan/sisan03.html

2−1−2.従業員が3年6ヶ月を超えて長く勤務すればするほど退職金の額は効率よく増える

中小企業退職金共済には国による助成が行われています。新規加入の場合と掛金を増額する場合に掛金の一部を助成してもらうことができます。つまり、退職金の原資となる掛金は、会社が支払った掛金の額だけではありません。国や自治体からの助成を受けた分の額も加わります。

そのため、従業員の平均の勤続期間が3年6ヶ月以上の会社であれば、退職金制度を効率よく整備するのに利用しやすい制度です。

2−1−3.掛金全額が損金に算入され会社の税負担が軽くなる、従業員の側でも掛金に税金がかからない

中小企業退職金共済の掛金は全額が損金に算入されます。個人事業主の場合は「必要経費」になります。したがって、中小企業退職金共済に加入した方が、加入しない場合よりも税負担が軽くなります。掛金は給与扱いされませんので、従業員に対して「給与所得」として所得税が課税されることもありません。

また、従業員の側からすれば税金がかかりません。また、退職金を受け取れば、「退職所得」として所得税の負担が軽くなるという恩恵が受けられるのです。

2−1−4.退職金の支払いに際して会社が不利益を被るリスクが全くない

退職金は中退共から従業員に直接支払われます。そのため、退職金の支払いによって会社には益金も損金も発生せず、会社が不利益を被るリスクが全くありません。会社が退職金を支払うことで赤字を招くリスクはゼロということです。

2−2.デメリット

中小企業退職金共済には以下のようなデメリットがあります。

2−2−1.後で掛金を減額しづらいので適切な掛金の額を設定する必要がある

中小企業退職金共済の場合、一旦払い込んだ掛金は何があっても取り戻すことができません。さらに、加入後に掛金の減額をするのはかなり面倒です。そのため、加入する時点で適切な額を設定しないと、会社のキャッシュフローが悪化するリスクがあります。

加入後に、業績の悪化等により掛金を減額するには、以下のどちらかが必要となります。

  • 従業員の全員の同意を得る(署名または押印)
  • 現在の掛金を支払い続けることが「著しく困難」だと厚生労働大臣に認定してもらう

これらの手続きはいずれも面倒なので、加入後に掛金を減額するのは難しいと言えます。

2−2−2.従業員の勤続期間が平均24ヶ月未満だと損をするリスクがある

従業員が勤続12ヶ月未満で退職した場合、その従業員には退職金は1円も支給されません。また、12ヶ月以上24ヶ月未満だと、掛金総額を下回る額の退職金しか支給されません。したがって、従業員の勤続期間が平均24ヶ月未満だと、掛金が無駄になるリスクがあるということです。

2−2−3.掛金を払い込んだら1円たりとも返してもらえない

いったん払い込まれた掛金は、後で返してもらうことができなくなります。

24ヶ月未満で退職した従業員だと、掛金総額を下回る額の退職金しか支給されませんが、掛金との差額を会社に返してもらうことはできません。その分のお金は、勤続年数がより長い人の退職金を多く積み立てるための財源として活用される仕組みになっているからなのです。

2−2−4.在職中の死亡の場合に遺族の生活保障が弱い

中小企業退職金共済は、従業員が死亡した場合には、その時点まで積み立てられた分のお金が「死亡退職金」として支払われることになります。この場合、死亡した従業員本人に代わって遺族が中退共に直接請求することになりますが、その従業員の勤続期間が短いと、「死亡退職金」の額自体が少なくならざるを得ません。

したがって、中小企業退職金共済を選択する場合は、従業員に万一のことがあった場合に「死亡退職金」の額が少なく、遺族の生活を保障してあげる機能が弱いというリスクがあります。

3. まとめ

国の制度としての助成が受けられたり、掛金の全額が損金になること、24ヶ月以上掛金を負担すれば、全額が支払われるなど非常に良い制度です。反面、会社は掛金を支払った時点でその資金は管理・運用することが出来なくなります。

退職金制度の全額を中退共で賄うことは過大な掛金負担を経営上のリスクとして背負うことになります。メリット、デメリットを良く理解して他の退職金積立制度と上手に併用するようにしましょう。

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