会社をさらに拡大発展させていくためには、優秀な人材の採用や育成が必須です。しかし、採用や育成にはそれなりの費用がかかりリスクもあります。そのような問題を解決できるのが「キャリアアップ助成金」です。
キャリアアップ助成金は、非正規雇用の労働者を正社員化したり、処遇を向上させたり、人材育成をした企業に対し、国から返還不要の助成金が支給される制度です。ここでは、経営者・非正規労働者双方にとってメリットのあるキャリアアップ助成金について、詳しく説明していきます。
目次
1.キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金とは、契約社員などの有期契約労働者、パートタイマーなどの短時間労働者、派遣社員などの派遣労働者に関する制度で、これらの労働者の企業内でのキャリアアップを促進することを目的として、「正社員化」「人材育成」「処遇改善」などの取り組みを実施した事業主に対して助成金が支給される制度をいいます。
この制度を利用すれば、経営者にとっては有能な人材の確保が期待でき、労働者にとっても正社員化などの大きなメリットが期待できます。労使双方にとってwin-winな「キャリアアップ助成金」について、詳しく説明していきます。
1−1.用意されているコースと金額等詳細
キャリアアップ助成金には、目的別に6つのコースが用意されています。それぞれのコースについて、詳細を確認していきましょう。
1−1−1.正規雇用転換コース
【概要】有期契約の非正規雇用の従業員や正社員でない無期雇用の従業員を正社員などへ転換した場合に助成金が支払われるコースです。
【支給額】
1人あたりの支給 | ||
---|---|---|
中小企業 | 中小企業以外 | |
有期雇用を正規雇用に | 60万円 | 45万円 |
有期雇用を無期雇用に | 30万円 | 22.5万円 |
無期雇用を正規雇用に | 30万円 | 22.5万円 |
ただし、派遣社員や母子・父子家庭などの場合は支給額がさらに加算されます。
【対象となる労働者】
- 雇用期間が通算6ヶ月以上ある有期契約労働者・無期雇用労働者
- 派遣された期間が6ヶ月以上ある派遣労働者
- 有期実習型訓練を受講し終了した、有期契約労働者
1−1−2.人材育成コース
【概要】
有期契約雇用者に対して、キャリアアップを図るために職業訓練を行った場合に支払われるコースです。
【職業訓練の内容】
- 一般職業訓練(Off-JT)
- 有期実習型訓練(Off-JTおよびOJT)
- 中長期的キャリア形成訓練(Off-JT)
- 育児休業中訓練(Off-JT)
* Off-JT・・・職場外訓練
* OJT・・・・日常業務内での訓練
【支給額】
<Off-JT>
○賃金助成 :1時間につき1人あたり800円(中小企業以外は500円)
○訓練経費助成:訓練時間によって以下のように受給額が異なります。
訓練に要した時間 | 受給額 | |
---|---|---|
中小企業 | 中小企業以外 | |
100時間未満 | 10万円 | 7万円 |
100時間以上200時間未満 | 20万円 | 15万円 |
200時間以上 | 30万円 | 20万円 |
<OJT>
○訓練実施助成:1時間につき1人あたり800円(中小企業以外は700円)
1−1−3.処遇改善コース
【概要】
有期契約労働者などの基本給の賃金テーブルを3%以上増額させた場合に支払われるコースです。(ただし、平成26年3月1日~平成28年3月31日は、2%以上増額した場合に支払われます。)
【支給額】
- 全ての賃金テーブルを改定:1人あたり3万円(中小企業以外は2万円)
- 雇用形態別、職種別賃金テーブルの改定:1人あたり5万円(中小企業以外は1万円)
【注意点】
- 1事業所あたり1年度100名までとなります。
- 職務評価を活用しての処遇改善の場合、加算額があります。
1−1−4.健康管理コース
【概要】
有期契約労働者等を対象とした法定外の健康診断制度を制定し、4名以上に実施した場合に支払われるコースです。
【対象となる労働者】
対象となるのは、以下の3つの要件を満たす有期契約労働者・無期雇用労働者です。
- 賃金テーブルを増額改定した日の前日より3ヶ月以上前から継続して雇用されている。
- 雇用保険の被保険者である。
- 助成金支給申請日に離職していない。
【支給額】
1事業所につき40万円(中小企業以外は30万円)
1−1−5.多様な正社員コース
【概要】
勤務地限定正社員や職務限定正社員、短時間正社員等の「多様な」正社員への転換、または新たに雇用した場合に支給されるコースです。
【対象となる労働者】
対象となるのは、以下の2つの条件を満たした、正規雇用労働者、有期契約労働者、有期実習型訓練を終了した労働者、新たに短時間正社員として雇用された労働者です。
- 雇用保険の被保険者である。
- 助成金支給申請日に離職していない。
【支給額】
1人あたりの支給 | ||
---|---|---|
中小企業 | 中小企業以外 | |
有期雇用を多様な正社員に | 40万円 | 30万円 |
無期雇用を多様な正社員に | 10万円 | 7.5万円 |
多様な正社員を正規社員に | 20万円 | 15万円 |
正規社員を短時間正社員に。
短時間正社員の新規雇用。 |
20万円 | 15万円 |
ただし、派遣社員、母子・父子家庭等の場合は支給額が加算されます。また、勤務地限定正社員・職務限定正社員制度を新設した場合も支給額が加算されます。
1−1−6.短時間労働者の週所定労働時間延長コース
【概要】
有期契約労働者の1週あたりの所定労働時間を25時間未満から30時間以上に延長した場合に支給されるコースです。
【対象となる労働者】
対象となるのは、以下の4つの要件を全て満たす労働者となります。
- 1週あたりの所定労働時間が25時間未満である。
- 30時間以上に延長した日の前日より6ヶ月以上前から、25時間未満の短時間労働者として雇用されている。
- 30時間以上に延長した日の前日より遡って6ヶ月間、社会保険が適用されていない。
- 助成金支給申請日に離職していない。
【支給額】
1人につき10万円(中小企業以外は7.5万円)
1−2.受給のコツ キャリアアップ
キャリアアップ助成金を確実に受給するためには、大事なコツが3つあります。
【趣旨に沿ったキャリアアップ計画書を作成する】
キャリアアップ助成金制度の最大の目的は「非正規労働者を減少させること」です。この目的を達成するため、不備の無いしっかりとした計画書を作成することがとても重要です。
【就業規則を見直す】
助成金を申請するコースによっては、就業規則の見直しをし、支給申請書に添付して提出する必要がある場合があります。そのため、キャリアアップの取り組みを行う前に変更して、事前に労働基準監督署へ届け出を行わなければなりません。
ただし、従業員の人数によって次のように届出の条件が異なります。
○10人以上の従業員を常時雇用している場合
労働基準監督署または地方運輸局に届け出る
○10人未満の従業員を常時雇用している場合
労働基準監督署に届け出るか、事業主と従業員全員で就業規則の実施について連署による申立書を作成する
【徹底したスケジュール管理をする】
キャリアアップ助成金の申請では、スケジュールを徹底して管理することが重要です。計画書の作成に始まり、実際に支給の申請をするまでは長くて1年程かかります。
無事に助成金を受給するまで、期限を守りながら手順通りに各手続きを行わなければなりません。スケジュールを確認しながら進めるためにも、作業手順の一覧表などを作成することをおすすめします。
2. キャリアアップ助成金を受けるための5ステップ
キャリアアップ助成金を受けるために必要な手続きを5ステップに分けて、具体的な手続きについて見ていきましょう。ここでは、例として「正規雇用転換コース」の手続きの流れについて説明します。
2−1. キャリアアップ計画の作成と提出
まず、雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置します。キャリアアップ管理者は、必要とされる知識と経験がある人が望ましいですが、特別な資格は必要ありません。
従業員の中から選出された代表者の意見を聴きながらキャリアアップ計画書を作成し、正規転換する1ヶ月前までに所轄の労働局長の確認を受けます。
2−2. 就業規則に転換制度を規定
就業規則に正規転換制度について規定します。その際、「転換の手続き」「要件」「実施時期」の項目について必ず記載することが必要です。労働基準監督署に届け出る際は、就業規則届や従業員の意見書も添付します。
届け出た後は、従業員に周知させる必要もありますので、忘れずに行いましょう。また、従業員が10人未満の事業所では、事業者と従業員全員の連署による「申立書」でも可です。
2−3. 転換制度に規定した手続きの実施
就業規則に規定した「試験の手続き」「対象者の要件」「転換実施時期」に従い、キャリアアップ期間中に転換・直接雇用を実施します。規定されたものと異なる手続きを行うと対象外になってしまうので注意しましょう。
2−4.労働条件通知書を交付
正規転換を実施したら、正規転換後の「労働条件通知書」を該当する従業員に交付します。その際、会社控え分や、正規転換前の労働条件通知書も必ず保管しておくようにします。
また、正規転換後は、他の正社員の労働条件と同じにする必要があります。
2−5.6ヶ月間の賃金支給後に申請
正規転換後、正社員としての6ヶ月間の賃金を支給します。ポイントとして、正規転換日を賃金計算期間と合わせるとスムーズに支給を行うことができます。そして、6ヶ月目の賃金支給日から2ヶ月以内に支給申請をします。
その際、添付書類がたくさんありますので、申請期間に間に合わないということがないように、あらかじめ準備しておくことが大切です。必要書類を揃えて申請し、労働局での審査の後に支給決定という流れになります。
3. キャリアアップ助成金を受ける際の注意点
キャリアアップ助成金は人気のある利用しやすい助成金の1つですが、不正受給防止のために、審査が厳しくなってきています。せっかく取り組んできても不支給になってしまうことがないように、キャリアアップ助成金を受ける際の注意点について説明します。
【残業代はしっかりと支払う】
申請の際に、正規転換した日前後6ヶ月分の出勤簿と賃金台帳を提出する必要があります。労働局の審査では、それらの書類を突き合わせて、残業代の支払いがきちんと行われているか等細かいチェックを行います。
もし支払いに漏れが発見されると差額の残業代が支払われるまで審査がストップすることになり、さらに「労務管理に問題あり」という印象を持たれてしまう可能性があります。
【就業規則の作成ミスをしない】
キャリアアップ助成金の申請には、就業規則の作成が必須となります。正規転換条項に盛り込むべき内容の記載例が厚生労働省のリーフレットにありますが、それをそのまま転記しただけでは不支給になる可能性があります。必ず自社の実態に合わせた内容で記載するようにしましょう。
また、正社員用と契約社員やパートタイマー用の就業規則が別になっている会社では、契約社員やパート用の就業規則に正規転換条項を定める必要があります。
【審査には協力的な態度で】
申請書や添付書類について疑義がある場合、審査には協力的な態度で臨むことが大切です。もし協力的でない場合は、不支給になるケースもあります。また、キャリアアップ助成金は国の助成金制度の1つであるため、国の会計検査の対象となることがあります。
その際も、協力的な態度で臨むようにしましょう。
【支給申請書等は5年間保存】
労働局に提出した支給申請書と添付書類の写し等は、助成金の支給が決定されたときから5年間は保存しなければならないとされています。
【最新の要件については問い合わせを】
助成金制度は、要件等が変更されることがあります。そのため、取り組みを実施する際は、所轄の労働局やハローワークへ最新の要件等について問い合わせるようにしましょう。
4.まとめ
キャリアアップ助成金は、事業主にとって助成金が支給されるだけでなく、優秀な人材を確保できるという大きなメリットがあります。一方、労働者にとっても正社員化やスキルアップができるだけでなく、能力やモチベーションを向上させる等のメリットがあります。
また、キャリアアップ助成金に取り組むことは、労働環境の見直し等にも役立つため、より働きやすい環境づくりができます。これからの自社の発展のために、ぜひ取り組んでほしい魅力的な制度といえます。