雇用促進のために用意されている助成金には様々な種類がありますが、その中でも「キャリアアップ助成金」は最も耳にすることの多い助成金ではないでしょうか。非正規雇用を正規雇用へ転換することなどによって、要件を満たした事業主に助成金が支給されます。
メリットのあるのは事業主だけでなく、非正規雇用だった労働者も正規雇用に転換され、雇用の安定が実現することから、労使双方にメリットのある助成金制度といえます。
ここでは、注目のキャリアアップ助成金について、詳しく解説していきます。
目次
1.要件を満たせば必ず受給出来る助成金とは
助成金とは、簡単に言うと「雇用保険適用事業所である会社が一定の要件を満たせば必ずもらえる資金」のことをいいます。助成金は、厚生労働省の管轄となっていて、会社から納付している雇用保険料が原資となっているので、要件を満たしている会社であればぜひ利用したいものです。
助成金には次の2つの特徴があります。
- 要件を満たせば必ず受給できる
- 会社の信用力アップにつながる
助成金は融資ではないため、返済をする必要がありません。
また、経済産業省が管轄の「補助金」は要件を満たしているにもかかわらず必ず受給できるとは限りませんが、助成金は条件を満たせば必ず受給できるという、大きなメリットがあります。さらに、「助成金をもらっている会社である」ということは、会社の労働環境が良く、意識の高い会社であると評価されます。
会社の信用力がアップすれば、今後の業績に好影響が期待できますし、有能な人材を確保できる可能性が高くなります。
ただし、助成金を申請するには要件を満たす必要があります。
- 雇用保険の適用事業所である
- 不正受給をしていない、または不正受給後から3年が経過している
- 過去1年間において労働保険料の滞納がない
- 風俗営業等関係事業主、反社会的勢力でない
2. キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金とは、パートやアルバイト、派遣社員、有期契約社員などの非正規雇用の労働者の会社内でのキャリアアップなどを促進するために、実際に取り組んだ事業主に対して支給されるものです。会社が、非正規社員を正社員にするための制度を設け、実際に対象となる社員が出た場合に受給できます。
非正規労働者数の減少を図るために、国も推奨している助成金なので、ぜひ有効活用しましょう。
2−1.キャリアアップ助成金詳細
一言でキャリアアップ助成金といっても、次の7つのコースに分かれています(平成30年度)。
- 正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 健康診断制度ケース
- 諸手当制度共通化コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
では、それぞれのコースの内容や助成額について見ていきましょう。
正社員化コース
有期労働契約や無期労働契約の従業員を正社員に転換した場代、多様な正社員に転換した場合などに受給できるものです。
取り組み内容 | 1人あたりの助成金 | 生産性向上が認められた
場合 |
---|---|---|
有期労働契約→正社員 | 57万円
(42万7,500円) |
72万円(54万円) |
有期労働契約→無期契約 | 28万5,000円
(21万3,750円) |
36万円(27万円) |
無期労働契約→正社員 | 28万5,000円
(21万3,750円) |
36万円(27万円) |
( )内は大企業の場合
なお、派遣労働者を正社員として直接雇用に切り替えた場合や、母子家庭(父子家庭)の母(父)を正社員又は無期契約に転換した場合などに、特別な加算額があります。
賃金規定等改定コース
対象となる有期契約労働者の基本給を2%以上増額された場合に支給されます。
- 全ての有期契約労働者が対象となっている場合
人数 | 1人あたりの助成金 | 生産性向上が認められた場合 |
---|---|---|
1~3人 | 9万5,000円(7万1,250円) | 12万円(9万円) |
4~6人 | 19万円(14万2,500円) | 24万円(18万円) |
7~10人 | 28万5,000円(19万円) | 36万円(24万円) |
11~100人 | 2万8,500円(1万9,000円) | 3万6,000円(2万4,000円) |
- 一部の有期契約労働者が対象となっている場合
人数 | 1人あたりの助成金 | 生産性向上が認められた場合 |
---|---|---|
1~3人 | 4万7,500円(3万3,250円) | 6万円(4万2,000円) |
4~6人 | 9万5,000円(7万1,250円) | 12万円(9万円) |
7~10人 | 14万2,500円(9万5,000円) | 18万円(12万円) |
11~100人 | 1万4,250円(9,500円) | 1万8,000円(1万2,000円) |
また、3%以上の増額改定を実現した中小企業には加算額があります。
賃金規定等共通化コース
有期契約労働者に対して、正規雇用労働者と共通に職務に応じた賃金改定を新たに作成し、適用した場合に支給されます。
1事業所あたりの助成金 | 生産性向上が認められた場合 |
---|---|
57万円(72万円) | 2万7,500円(54万円) |
健康診断制度ケース
従業員の健康管理を行うことによりキャリアアップに役立てるという意図から、法定外の健康診断制度を定め、4人以上に実施した場合に支給されます。
1事業所あたりの助成金 | 生産性向上が認められた場合 |
---|---|
38万円(48万円) | 28万5,000円(36万円) |
諸手当制度共通化コース
正規雇用と共通の諸手当に関する制度を新設し、適用した場合に支給されるものです。
1事業所あたりの助成金 | 生産性向上が認められた場合 |
---|---|
38万円(48万円) | 28万5,000円(36万円) |
選択的適用拡大導入時処遇改善コース
有期契約労働者を新規で社会保険に適用し、基本給を増額させた場合に支給されます。
賃金増額割合 | 1人あたりの助成金 | 生産性向上が認められた
場合 |
---|---|---|
3%以上5%未満 | 1万9,000円
(1万4,250円) |
2万4,000円
(1万8,000円) |
5%以上7%未満 | 3万8,000円
(2万8,500円) |
4万8,000円
3万6,000円 |
7%以上10%未満 | 4万7,500円
(3万3,250円) |
6万円
(4万2,000円) |
10%以上14%未満 | 7万6,000円
(5万7,000円) |
9万6,000円
(7万2,000円) |
14%以上 | 9万5,000円
(7万1,250円) |
12万円
(9万円) |
- 短時間労働者労働時間延長コース
- 有期契約労働者の週の所定労働時間を5時間以上延長し新規で社会保険に加入させる
- 週の所定労働時間を1時間以上5時間未満延長し新規で社会保険に加入させた上に、賃金規定等改定コース又は選択的適用拡大導入時処遇改善コースを実施した
上記2つの、いずれかを満たした場合に支給されます。
- 有期契約労働者の週の所定労働時間を5時間以上延長し新規で社会保険に加入させた場合
1人あたりの助成金 | 生産性向上が認められた場合 |
---|---|
19万円(24万円) | 14万2,500円(18万円) |
- 週の所定労働時間を1時間以上5時間未満延長し新規で社会保険に加入させた場合
週の労働時間延長 | 1人あたりの助成金 | 生産性向上が認められた
場合 |
---|---|---|
1時間以上2時間未満 | 3万8,000円
(4万8,000円) |
2万8,500円
(3万6,000円) |
2時間以3時間未満 | 7万6,000円
(9万6,000円) |
5万7,000円
(7万2,000円) |
3時間以上4時間未満 | 11万4,000円
(14万4,000円) |
8万5,500円
(10万8,000円) |
4時間以上5時間未満 | 15万2,000円
(19万2,000円) |
11万4,000円
(14万4,000円) |
2−2.キャリアアップ助成金の受給要件
キャリアアップ助成金を受給するためには、満たすべき要件が定められてますので確認しておきましょう。
まず、助成金の支給対象となる事業主の要件です。
- 雇用保険適用事業所である
- キャリアアップ管理者を置いている
- キャリアアップ計画を作成し、労働局の認定を受けている
- 賃金台帳などの書類を整備している
- キャリアップ計画期間内に計画を実施したこと
そして、受給するための要件はこちらです。
- キャリアアップ計画書を提出し、労働局の認定を受けている
- 正社員などへ転換する制度を就業規則等に規定している
- 対象となる労働者を転換後6か月以上雇用し、なおかつ6か月分の賃金を支払っている
- 労働法令等を遵守している
キャリアアップ助成金には7つのコースが用意されていますが、共通した必要要件としてはこれらのものが挙げられます。また、キャリアアップ助成金を利用する上で大事なものに「生産性要件」があります。
これは、労働生産性を高める取り組みを行い、効果が発揮できた事業主に上乗せで支給されるもので、計算式で算出された「生産性伸び率」が要件を満たしているかどうかで判断されます。
2−2.キャリアアップ助成金の申請方法
キャリアアップ助成金では、各コースによって取り組みが異なりますので、細かい流れに違いがありますが、大よその流れは共通していますので、確認していきましょう。
- コースを選択した後、計画書を作成する
- キャリアアップ計画書を提出し認定を受ける
- 従業員と労働協約を結ぶ、または就業規則の作成・変更を行う
(場合によっては、対象となるじゅうぎょういんに労働契約書や労働通知書を交付する)
- 期日に間に合うよう、助成金の支給申請をする
(要件を満たした日の翌日から2か月以内)
- 助成金の支給が決定される
3.実際のモデルケースで紹介!キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金の中の「正社員化コース」について、モデルケールを用いて流れを確認していきましょう。
- 非正規労働者として雇い入れる
- キャリアアップ計画届を労働局に提出し認定を受ける
- 非正規労働者として6か月以上経過したら正社員へ転換する
(雇用保険の資格取得日から6か月以上経過)
- 正社員として6か月分の賃金が支払われた翌日から2ヶ月間が申請開始となる
- 管轄の労働局やハローワーク、助成金センターへ申請する
- 助成金の審査を受ける(2~6か月程かかる)
- 労働局から「支給決定通知書」が送付され、助成金が支給される
これらの流れからも分かるとおり、非正規労働者を雇い入れてから助成金を受給するまで、1年6か月程の期間が必要になります。
4.助成金受給時における注意点
- 次の項目に該当する事業主は助成金を受給できませんので注意が必要です。
- 3年以内に不正受給をした
- 前年度以前の労働保険料が未納
- 過去1年間に労働法令違反をした
- 支給申請日若しくは決定日に倒産している
- 計画提出後に対象となる従業員が退職した
- 性風俗や暴力団と関連している
- キャリアアップ助成金を受給するために、従業員間で不公正な賃金格差が出てしまうと他の従業員とのトラブルに発展する可能性もあることから、対象となる従業員だけでなく、他の従業員にも丁寧に説明することが求められます。
- 助成金の申請には多くの添付書類が必要とされ、少しでも不備があると助成金を受給できなくなるため、入念に準備する必要があります。
- キャリアアップ助成金は、取り組めば必ずもらえる助成金ですが、初めて取り組むのが不安な場合は、助成金に精通した専門家のサポートを受けて、受給資格の確認や従業員とのトラブル回避などに役立てることをおすすめします。
5.まとめ
キャリアアップ助成金は、実際に取り組み審査に通れば必ず受給できるものです。助成金がもらえる事業主にもメリットがあり、非正規社員にとっては正規社員になれるチャンスでもあるため、双方にメリットがあるものなのでぜひ利用したいものです。
ただし、必要書類をそろえるのが大変だったり、申請期間を厳守する必要があるなど、注意点もありますので、信頼できる専門家と共に手続きをすすめていくことをおすすめします。