独立して事業が軌道に乗ってくると、配偶者(妻)にも事業を手伝ってもらうことになると思います。その際、妻を青色事業専従者にして専従者給与を払うことになりますが、その分の給与は確定申告の際に控除対象となります。
しかし配偶者における控除については、「配偶者控除」もあります。専従者給与と配偶者控除はどちらも節税効果が期待できるものですが、どのような違いがるのかはっきりと分からない方も少なくありません。
そこでここでは、専従者給与と配偶者控除の違いやメリット・デメリットなどについて詳しく説明していきます。
目次
1.専従者給与とは?
専従者給与とは、事業を妻や子供に手伝ってもらい、その報酬として支払った給与を経費として計上することで節税効果が期待される制度です。本来、事業者が生計を一にする配偶者や親族に給料を支払っても、それを必要経費にすることができません。
しかし、例外として要件を満たした上で手続きを踏めば、必要経費として算入することが認められており、これを「青色事業専従者給与」といいます。では、専従者給与の手続き方法や専従者となれる条件などについてみていきましょう。
【手続き方法】
「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の税務署へ提出します。提出期限は、専従者に給与を支払う年の3月15日までです。
ただし、次の2つの場合は2ヶ月以内に提出する必要があるため注意しましょう。
- 1月16日以降に開業した場合
- 専従者が新たに増えた場合
【専従者となる条件】
専従者となるには、家族であれば誰でもいいというわけではなく、次の3つの要件に該当する必要があります。
- 青色申告者と生計を同一にする配偶者やその他親族である
- その年の12月31日時点で、年齢が15歳以上である
- 原則として、1年間の内6ヶ月を超える期間(または1/2を超える期間)青色申告者の事業に専念している
ただし、15歳以上であっても、高校生や大学生など学業に専念する家族は専従者として認められていません。
また、白色申告というものもありますが、こちらは専従者給与を必要経費にすることはできません。そのかわりに、「事業専従者控除」として一定額の控除を受けることができます。
【事業千寿者控除額の計算方法】
事業所得÷(専従者の数+1)=事業専従者控除額
ただし、この控除額には上限が定められており、事業専従者が配偶者の場合は86万円、配偶者以外の親族の場合は1人につき50万円となっています。
2. 配偶者控除との違いを分かりやすく比較
青色事業専従者給与と配偶者控除は、節税対策をとる上で同じようなものだと思われることがありますが、実はこの2つは似て非なるものです。まず、青色事業専従者給与は「支払い」が必須となり、配偶者控除は「控除」であるという点が異なります。
つまり、青色事業専従者給与は給与として支払う必要があり、その分が「必要経費」として扱われます。一方、配偶者控除では給与を支払わなくても控除を受けることができます。
言い換えると、青色事業専従者給与は必要経費を増加させることによって、また配偶者控除は所得控除を増加させることによって、節税対策になるといえます。しかし、青色事業専従者給与は、支払った給与分を必要経費にすることができる一方、配偶者控除や扶養控除を受けることができなくなります。
また、白色事業専従者給与は、配偶者控除や扶養控除に比べて控除額が大きくなることが多いですが、青色事業専従者給与と比べると節税効果は小さくなることが多いです。
青色事業専従者給与と白色事業専従者給与、配偶者控除の違いを以下にまとめてみました。
青白事業専従者給与 | 白色事業専従者給与 | 配偶者控除 | |
---|---|---|---|
対象となる者 | 青色申告者と生計を一にする配偶者または親族 | 青色申告者と生計を一にする配偶者または親族 | 青色申告者と生計を一にし、青色・白色事業専従者でない配偶者 |
所得 | なし | なし | 年間所得が38万円以下 |
年齢 | その年の12月31日時点で15歳以上 | その年の12月31日時点で15歳以上 | なし(民法の規定における配偶者) |
勤務状態 | 1年のうち6ヶ月を超えて専ら従事している | 1年のうち6ヶ月を超えて専ら従事している | なし |
事前届け出の
必要性 |
「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出 | なし | なし |
控除額または
必要経費 |
支給された給与のうち、届出書に記載された範囲内で、かつ相当と認められる金額 | 配偶者:86万円
親族:50万円 |
一般:38万円
老人:48万円 |
3.モデルケースで解説!
青色事業専従者給与と配偶者控除のどちらを適用させればいいのかは、判断が難しいところです。ここでは、「配偶者控除」を受けたほうが得な場合と、「青色事業専従者給与」を支給したほうが得な場合とを、ケース別にご説明します。
3−1.ケース1
【配偶者控除を受けたほうが得な場合】
夫:青色事業者
妻:パート(年収98万円)
配偶者控除を受けるには、妻の年間所得が38万円以下であることと、青色・白色事業専従者として専従者給与を支給されていないことが条件となります。ケース1では、妻がパートで働いていて、年収98万円から給与所得控除の65万円を控除すると、所得は33万円となるため、配偶者控除を受ける条件を満たします。
青色事業主として起業して日が浅くまだ所得が少ないという場合には、妻が外で働いているケースも少なくありません。そのような場合は、配偶者控除を検討してみましょう。
また、2018年より配偶者控除の要件が変更になり、現在の「合計所得金額38万円以から「合計所得金額85万円以下」に大きく引き上げられることになっています。これを分かりやすくパートやアルバイトの年収として見てみると、現在の「103万円以下」が「150万円以下」に引き上げられます。
また、今までは青色事業者の所得金額に関わらず、38万円の配偶者控除が受けられていましたが、今後は所得金額の金額によって控除額が逓減されることになっています。
青色事業者の所得金額 | 配偶者控除額 |
---|---|
900万円以下 | 38万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 |
このような改正も考慮しながら控除制度を活用するようにしましょう。
3−2.ケース2
【青色事業専従者給与を支給したほうが得な場合】
夫:青色事業者
妻:青色事業専従者(年収96万円)
青色事業専従者給与として支払われた分は、届け出た金額を超えない額で、なおかつ労働の対価として相当と認められた金額であれば全額必要経費として算入することができます。
ケース2のように、専従者給与として年収96万円を支給した場合は、96万円全額が必要経費と認められます。また、所得も38万円以下であることから、税金の支払いが発生することもありません。
しかし、もし年収103万円を超えて専従者給与を支給する場合は、専従者にも税金の支払いが発生することになります。そのため、青色事業者・専従者の税金を計算し、税金をより安くできる所得を考える必要があります。
基本的に所得が高くなるにつれ税率も高くなるため、事業主の所得が高くなりすぎないよう「所得の分散」をして、事業主・専従者の所得がほぼ等しくなる地点が節税効果が最も高くなるといえます。
4.専従者給与、配偶者控除のメリットデメリット
配偶者を専従者とし専従者給与を支払うのか、専従者とはせずに配偶者控除を受けるのかは、非常に、専従者給与と配偶者控除のメリットとデメリットについてまとめてみましたので、どちらにするか決める際の参考にしていただければと思います従者給与のメリットデメリット
青色事業専従者給与のメリットデメリットは次のとおりです。
【メリット】
- 専従者に支給した金額が経費として認められるため、その分所得を圧縮できる。
【デメリット】
- 配偶者(特別)控除を受けられない。
- 専従者に多額の給与を支給すると、専従者も税金を支払わなければならなくなる。
4−2. 配偶者控除のメリットデメリット
配偶者控除のメリットデメリットは次のとおりです。
【メリット】
- 「控除」なので、配偶者は税金の負担を気にする必要がない。
【デメリット】
- 配偶者控除は38万円なので、大きな節税効果が期待できない。
5.まとめ
専従者給与を支払うためには、必要な届出書を期日までに届け出る必要があります。また、生計を一にする、1年間の内6ヶ月を超える期間を専ら事業に専念するなど、条件を全て満たしている必要もあります。
専従者給与を支払うと、配偶者(特別)控除を受けることは出来なくなります。よって、どちらを利用するのかは現在の状況から税金をシミュレーションして、より安く抑えられる方を選ぶようにしましょう。
青色事業を開始してまだ日が浅く所得もあまり無いという状況でしたら、妻は外で働いていることも多いため、配偶者控除を利用することを検討してみましょう。
そして、青色事業専従者給与を支払うのであれば、届出書で届け出た金額の範囲内であり、業務内容が妥当なものであれば全額が必要経費として算入できます。ただ、年収103万を超えて支払うと専従者にも税金が発生するので注意が必要です。
また、2018年からの配偶者控除の引き上げも考慮しながら、世帯での税負担が一番抑えられる所得分配を見出すことが大事です。