経営者なら最低限押さえておくべき労働基準法の5つのポイント

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経営者の皆様に「労働基準法」はどういうイメージで映りますでしょうか。いい印象を持っている方は決して多くないと思います。

どんなイメージであれ、ひとつ間違いなくいえることは、「労働基準法」は、経営者を縛る法律だということです。その概要を知っておかないと、経営はできせん。

1. 労働基準法とは

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本来、契約は当事者どうし対等なものです。しかし労働の世界、特に家族的経営をモットーとする日本においては、労働組合もその力を不十分にしか発揮できなかった歴史があります。

良くも悪くも「お上意識」の強い日本では、労働者保護は法律の強化によってなされてきました。本来、対等なはずの労使関係を、労働者側に有利に働かせバランスを取っているのが日本の労働基準法です。

「労働者の解雇」が、使用者にとってはまったく自由ではない法制となっているのは、その現われです。

1-1. 労働基準法の印象

このような歴史を考えますと、経営者として、労働基準法を憎らしく思う人がいても別段不思議ではありません。なんとか抜け道を探そうとするのも、それは理解できない話ではありません。ですが、使用者が等しく守らなければならないのは、労働基準法だけではありません。考え方をちょっとずらしてみましょう。

御社のビジネスは、どういった業界に属しているでしょうか。どんな業界にも、業界独自の規制法があるものです。経営者なら、規制法についてはお詳しいことでしょう。

業界法には詳しいのに、どの会社にも適用される、「労働基準法」に無頓着だとしたら、それは不十分ではないでしょうか。従業員を雇って利益を得ている以上、それに関係する法律も、経営のリスクになり得ます。

1-2. 労働基準法の捉え方

業界法については、経営者としてどのように捉えられていますでしょうか。もともと、業界初のビジネスには規制はありません。業界が大きくなり、同業者が増えますと、質にもバラツキがでてきて規制が厳しくなります。

業界法に対する経営者の姿勢は、労働法の世界に対しても、アプローチの仕方が同じになることと思います(さらに言うなら、税金に対してもきっとそうでしょう)。業界法は、足かせになることも、既得権益になることもあります。労働法の世界でもそれは同じです。

抜け駆け的に、業界法の規制を適当にあしらう方針のビジネスと一線を引く意思がある方で、業界法の規制を無視などしない経営者なら、労働法上の規制についてもきっと上手に乗り切れるはずです。

労働基準法の精神を理解している会社は、あらゆる業界と、きちんと勝負ができます。遵法意識の高い会社であることが従業員にきちんと伝われば、競争力の高い人材が揃います。なんでも戦略的に取り組まねばなりません。

2. 労働基準法の知っておくべきルール

経営者の常識が間違っている部分もあることでしょう。「最低限、これだけは知らないと」という部分をピックアップしてみました。

2-1. 解雇

第20条の規定です。労働者を解雇する際は、解雇の30日前に予告するのが原則です。条文には書かれていませんが、「言った言わない」を防ぐため、書面で予告するのが当然です。

「解雇」というものは、「処分」だというイメージが強いかもしれませんが、「解雇」と「処分」とは本来別次元のものです。処分としてなされる解雇もありますが、業務上のやむを得ない事情でも解雇は行われます。いわゆるリストラでの整理解雇はこれにあたります。

解雇をするとして、30日前に予告し、30日間仕事をしてから辞めてもらいますというやり方は、お互いにあまりにも酷な場合もあります。即時解雇も可能です。即時解雇の場合は、「30日分の平均賃金」を即時に支払うことが求められています。

以上は当然守るべきルールですが、続きがまだあります。もともと労働基準法にあった条文が「労働契約法」に移されたものです。

<第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。>

日本の法律では、正当な理由がないと解雇もできないのです。社長が、気に食わない従業員に対して「お前クビ!」などということが許されない法制度になっています。良くも悪くも、労使はウェットな関係となるのです。

経営者の皆様にも、従業員との関係性については様々でしょう。日ごろから高圧的な態度の社長もいるでしょう。そのこと自体に問題があるわけではないですが、高圧的に「クビ」とやってしまった瞬間から、相手が支配下を離れて、法律を武器に牙をむいてくることがあることは、決して忘れないようにしましょう。

2-2. 賠償予定の禁止

第16条にあります。

たまに、コンビニ等で、「ブラックバイト」として問題になることがあります。「遅刻したら罰金千円」「欠勤したら罰金五千円」のような決め事です。

まともな就業規則には記載しようのないルールですが、学生や留学生など、労働法に無知な人たちを使う際に、公然と行われている実態がまだまだあるようです。ちなみに、アルバイトに対しても、労働基準法は当然に適用されます。

こういう「罰金」を決めること自体が労働基準法違反となります。「従業員にとってもこの方がいいのだ」などと釈明してみても、これが許される場所は、日本に存在しません。

従業員が、会社に実際に損害を与えた際に、決められた罰金に基づくのではなく「損害賠償」をすることは禁じられていません。ただ、実際の損害以上に請求できるわけではありません。

またそれに、会社は従業員の労働で利益を得ているという構造(報償責任の論理)がある以上、損害が発生したからといって無条件に賠償が認められるものでもありません。従業員を、「単なる売上げを上げるためのシステム」と考えるかどうかが、「ブラック企業」とそうでない企業の分岐点になるのではないでしょうか。

2-3. 休憩

第34条の規定です。

1日の労働時間が6時間以上の場合、最低45分の休憩が必要です。8時間を超える場合は、1時間の休憩が必要です。

仕事が忙しいと、お昼休みを取らずに仕事を続ける社長もいるでしょう。経営者が休憩を取らなくとも、なんの法律上の問題もありません。ですが、社長に気を遣って従業員がお昼に行けないような職場には、かなりの問題があります。

「仲間」意識に溢れる職場が悪いとはいいませんが、その意識が労働ルールに抵触していると、あとでしっぺ返しを食らいます。休憩は、仕事から完全に解放される必要がありますので、「休憩しながら電話番」もNGです。

労働基準監督署に申告されますと、確実に指導を受ける事例です。指導だけならいいですが、取れなかった休憩時間について賃金を後払いさせられることもあります。

従業員の立場からすると、「昼休みと言ってもすることがないし、仕事をしていたほうがいい」という場合もあるでしょう。ただ、「任意にやっている」と「強制的にやらされている」との差は、実際のところ驚くほど小さいものです。

2-4. 年次有給休暇

第39条の規定です。

日本の労働者が有休を取得せずに働きすぎで、諸外国から評判が悪く、それでどんどん国民の祝日が増えているという実態はご存じでしょう。

では、有休は与えなくていいのかというと、もちろんそんなことはありません。会社によっては、従業員相互に、有休を忌避する雰囲気もあるかもしれません。ぎりぎりの人数で回している会社の場合、「休まれたら困る」ということも確かにあるでしょう。

従業員のほうも、病気をしたときに大事に取っておいたりもします。ですが、溜まった有休はトラブルの元です。

「いつか使う日を楽しみにしよう」と思う人が使う機会は、得てして退職時です。現行法上、「有休を使い切って退職する」という方法を、阻止するすべはありません。退職時に嫌な思いをするくらいなら、日ごろから有休を取りやすい職場を作っておくほうが健康的な職場といえるでしょう。

2-5. 産休関係

産前産後の関係は、第65条と第66条に記載されています。さらに、労働基準法にはありませんが、「育児介護休業法」に、育児休業が規定されています。

産前は、妊産婦の希望に応じて最大6週間前から休業に入れます。産後は8週間の就業禁止というルールがありますが、現在の実務上は、産後休業終了後は通常「育児休業」に入るようになっています。女性が、「妊娠したら会社を辞める」という慣行になっていたのはそれほど昔のことではありません。

現在は育児休業も普通になりました。これには、育休中の会社の負担がゼロとなったことが大きく貢献しています。このあたり、使用者に「強制」を働き掛けるにあたって、「損得」の心配を解消していくという法改正のありようが、極めて日本らしいものです。

まとめ

労働基準法は、日本の労働の負の遺産を解消するために積み重ねられた内容となっています。その内容について、その根拠を疑問に思った際は、こう考えてみればいいと思います。

「法律を意図的に無視して、得られるものはなんだろうか?」

そして、それをご自身の業種の業界法にも当てはめてみましょう。そうしますと、おのずから正解が出るように思います。

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