最近話題になっている「高度プロフェッショナル制度」。この制度は、労働者に対し労働時間数ではなく「成果」に対して賃金を支払うもので、残業代や深夜の割増賃金を支払う必要がなくなります。
そのため、労働者の残業時間が増え続けていて、残業代の支払いに頭を悩ませている経営者にとって、とても興味深い制度といえます。ここでは、高度プロフェッショナル制度の内容やメリット・デメリット、導入時期などについて分かりやすくご紹介します。
1.高度プロフェッショナル制度とは分かりやすく!
「高度プロフェッショナル制度」とは、正式名称を「特定高度専門業務・成果型労働制」といい、労働基準法の改正案で新たに提案された制度をいいます。この制度はすでに欧米で採用されており、「ホワイトカラーエグゼンプション」と呼ばれています。
この制度を分かりやすくいうと、「高い専門的な能力を持っている人を対象にして、成果型報酬制労働時間を採用する制度」ということになります。つまり、高い専門的な能力を持っている人には、仕事に携わった時間に対して賃金を支払うのではなく、仕事の「成果」に対して賃金を支払うということです。
この制度下では、「時間外労働」という概念が無くなりますので、残業代や深夜などの割増賃金の支払いが無くなります。それゆえ、「残業代ゼロ法案」という呼ばれ方もしています。
国がこの制度を導入する目的としては、「拘束時間よりも成果で評価される働き方を希望している労働者のニーズに応え、能力や意欲を十分に発揮してもらうところにある」とされています。
2.メリットとデメリットを紹介!
この制度は、「残業代が支払われなくなる」というイメージが先行し、ブラックなイメージを持たれることが多いですが、この制度を導入するとどのようなメリットがあるのか、確認していきましょう。
【メリット】
- 出社・退社時間を自分で自由に決めることができるため、育児や介護中でも仕事がしやすくなる。
- 成果が出れば仕事を早く切り上げられるので、生産性が上がる。
- 「残業する人ほど高い賃金が得られる」という矛盾が解決できる。
- 残業代が出ないので、仕事を効率的に早く仕上げようという意欲につながる。
- 自分の仕事は終わっているのに、同僚や上司の仕事を手伝わなければ帰れないという現在の風習が解消できる。
このように、この制度を導入すると、「仕事に集中して効率的に終わらせよう」というモチベーションを高めることや、「自分の仕事が終わっても他の人が終わらなければ帰れない」という職場意識の改善にも役立つといえます。
一方、デメリットにはどのようなものがあるのか、確認していきましょう。
【デメリット】
- 自分の仕事が終わらないと帰れないので、「サービス残業」が横行する危険性がある。
- 「成果」での評価は、労働時間数での評価に比べて、判断基準が厳しくなる。
- 仕事が終わらない人にとっては、かえって労働時間が長くなる可能性がある。
- この制度は、本人の意思で採用するかどうかを決めることができるが、現実的には上司の手前非常に断りづらい。
- 日本での企業においては、これまで個人の職務範囲を明確にする習慣がなかったため、提出が義務となる「職務記述書」の内容が曖昧なものだと、いつまでも仕事が終わらない恐れがある。
- 現在の日本の職場の「終わった人は終わらない人の手伝いをする」という風潮の中、たとえ早く終わったとしても実際には帰れない可能性がある。
この制度の導入に反対する人の意見として、「日本の職場環境にこの制度がマッチしない」ということが挙げられます。すでにこの制度が取り入れられている欧米では、「自分の仕事が終われば帰る」という考えが当たり前に通用していますが、現在の日本の職場意識には当てはまりません。
それゆえ、「ただ単にサービス残業が増えてしまうだけなのでは・・・?」と不安に思う声もあるようです。
3.高度プロフェッショナル制度導入はいつから
高度プロフェッショナル制度は、経営者側から見ると「従業員に合法的に残業を行わせつつ残業代の支払いを削減することができるようになる」ため、導入したいと考える経営者もいらっしゃると思います。
そこで気になるのが、この制度はいつから導入されるのかということです。
結論から言いますと、導入の時期や詳細については今はまだ不確実な状況です。平成28年4月の労働基準法改正時に導入される見込みでしたが、結果は見送りとなりました。
平成18年に「残業代ゼロ制度」として批判を浴び廃案になった「ホワイトカラーエグゼンプション」の例もあることから、政府としても導入に向けては慎重に検討せざるを得ないというのが現状です。
しかし、高度プロフェッショナル制度の導入はまだ未定でも、すでに労働時間ではなく仕事の成果で労働者を評価する制度はいくつか存在しています。
具体的には以下の3つの制度です。
- 労働基準法上の管理監督者
- 企画業務型裁量労働制
- 専門業務型裁量労働制
参考までに、それぞれの制度の職務範囲や年収、労働時間についてまとめてみました。
職務の範囲 | 年収 | 労働時間 | |
---|---|---|---|
労働基準法上の管理監督者 | 管理監督・指揮命令において広い裁量を与えられている管理職。 かつ、勤務時間について厳格な制限が無いもの。 |
700~800 万円以上 |
労働基準法による規定は適用外のため、残業という概念がない。 ただし、深夜割増手当の支払いは必要。 |
企画業務型裁量労働制 | 事業運営についての企画・立案・調査・分析職。かつ、業務の手段・時間配分の決定について指示が困難なもの。 | なし | 実労働時間数が何時間であろうとも、労使委員会で決定された労働時間を働いたとみなされる。所定労働時間を超えた場合や所定労働日以外に労働した場合は残業手当等の支払いが必要。 |
専門業務型裁量労働制 | 新商品・新技術の研究開発、情報処理システムの分析・設計、記者、デザイナー、放送関係のプロデューサー等、弁護士、建築士、教授などの職務。かつ、業務の手段・時間配分の決定について指示が困難なもの。 | なし | 同上 |
一般的に会社にとって使いやすい制度は、「労働基準法上の管理監督者」といえます。労働時間の規制が厳しくない一方で、職務の範囲や年収などの条件が厳しいですが、もし該当するのであればぜひ対象として検討したいところです。
また、これに該当しない経営や企画に携わっている労働者は、企画業務型裁量労働制の対象とすることを検討してみてはいかがでしょうか。
4.制度が導入されると具体的にどう変わる?
高度プロフェッショナル制度が導入されると、具体的に何がどう変わるのかについて見ていきましょう。
【対象となる者】
高度プロフェッショナル制度は、全ての人が対象となるわけではありません。
対象となるのは、次の職務に就いている人です。
- 金融商品の開発業務
- 金融商品のディーラー業務
- アナリスト(市場や企業などの高度な分析業務)
- コンサルタント(事業・業務の企画運営についての高度の考察や助言業務)
- 研究開発業務
これらの職務に就いていることに加えて、次のような条件も必要になります。
- 職務の範囲が明確に決められている
- 職務記述書などに署名し同意する(同意が無ければ制度は適用されない)
- 年収が1,075万円以上である
- 年少者は適用除外
この制度が適用されると、労働時間での管理がなされないことになるため、この制度に該当しない普通の労働者には支払われている時間外・深夜・休日出勤の割増賃金などが支払われないということになります。
前出の3つの裁量労働制(労働基準法上の管理監督者、企画業務型裁量労働制、専門業務型裁量労働制)は深夜・休日出勤割増賃金については支払われることになっているため、この点が高度プロフェッショナル制度と大きく異なっています。
このような点も、「残業代ゼロ法案」と批判されている原因になっているようです。しかし、そのような批判に応えるために、次に挙げる健康維持策のいずれかを導入しなければならないことが見込まれています。
- 業務開始から24時間以内に継続した休憩時間を確保させること
- 健康管理のため、労働時間に上限を設定する
- 休日は、4週間に最低でも4日、1年間で104日を確保させること
残業代の支払いをしなくて済むからといっても、無制限に労働させていいというわけではありません。労働者の健康管理も考慮する必要があるため、労働時間の規制はあると考えるべきでしょう。
【対象者拡大の可能性】
現段階において、高度プロフェッショナル制度の対象者は、年収が1,075万円以上の労働者とされ、一般の企業においては役員クラスが該当するため、ほとんど利用することができないと見られています。
そのため、経営者側からは「使いづらい制度だ」との意見があります。しかし、一方で労働者側からは、「年収要件を徐々に引き下げて適用範囲を拡大する布石だ」という批判が出ているようです。
実際に、この制度が導入された際は、制度の有効活用のために、ある程度まで年収要件が引き下げられることは大いに考えられます。参考までに、この制度がすでに導入されているアメリカでは、やはり年収要件が引き下げられましたが、労働者からの批判を受けて見直しを検討することになりました。
【健康管理のために労働時間の管理は必要】
高度プロフェッショナル制度を導入し、職務記述書に同意した労働者は、労働時間数に関係なく、成果によって一定の賃金を受け取ることになります。しかし、近年大きな問題になっている「過労」対策のために、制度を導入する会社は労働者の健康管理のために、労働時間を把握しておく必要があります。
この労働時間はあくまで健康管理のためであり、残業代の計算には関係がありません。労働時間を把握するために、タイムカードやパソコンの起動時間など、一般の労働者と同じような方法で管理することになると思われます。
5. まとめ
現在の日本において、労働時間の長さと仕事の成果が必ずしも比例しないというケースが多くみられます。この問題を解決するために、「労働時間数ではなく、成果に対して賃金を支払う仕組み」が必要とされ、高度プロフェッショナル制度が提案されました。
この制度が導入されれば、仕事を効率的に早く仕上げようという意欲が高まったり、勤務時間を自分で決められるので育児や介護中の人でも仕事がしやすくなったりというメリットがある一方で、労働基準法で定められている長時間労働の抑制が適用されなくなるため、過労に繋がるとの批判の声もあります。
現在は導入が見送られていますが、将来的には導入されることが見込まれています。一度導入された後は、年収要件が引き下げられたり、対象となる職種が拡大されたりする可能性もあることから、今度の動向に注意を向け続けることが大切です。