残業時間の改善に効果的な制度として注目を浴びているものに「勤務間インターバル制度」があります。この制度を導入すると、従業員に1日の業務終了時から翌日の始業時間までに一定時間の休息を与えることが義務付けられるため、従業員の心身の健康に役立つだけでなく、生産性の向上など会社にとってもメリットがあります。
しかし、導入にあたっては問題点や注意すべき点もあり慎重に進める必要があります。また、当制度の取り組みで助成金を受け取ることができるので、助成金の詳細についてもしっかりと理解しておきましょう。
目次
1.勤務間インターバル制度とは
「勤務間インターバル制度」とは、時間外労働などを含む1日の勤務が終了した時間から翌日の始業時間までに、一定時間のインターバルを設けることで、従業員の休息時間を確保するための制度です。
慢性的な長時間勤務に陥っている会社や不規則な勤務体系を改善したいという業界を中心として、注目を浴びている制度です。
勤務間インターバル制度を導入すれば、当日の勤務と次の日の勤務の間に一定の休息時間を確保することが義務付けられるので、従業員の過重労働の防止や心身の負担を軽減することができます。
<出典:厚生労働省>
EU加盟国ではすでに1993年に制定された「EU労働時間指令」により、「24時間につき最低11時間の休息時間」が義務付けられています。そのような中で、日本でもKDDI株式会社やユニ・チャーム株式会社など、勤務間インターバル制度を導入している企業が出てきています。
1−1.勤務間インターバル制度の問題点
勤務間インターバル制度を導入するにあたっては問題になる点があります。導入すれば、従業員の心身の負担が軽減されることにつながりますが、通常の始業時間に出勤しない場合、代わりとなる従業員がいないと、他の従業員の負担が増加することになります。
また、業務間インターバル制度により管理職が不在となる時間帯ができると、その間の運営上に差し支えが出る可能性が考えられます。他にも、勤務交代制の場合にはシフトが組みにくく業務が潤滑に回らないということも考えられます。
これらのことから、導入を急ぐとかえって従業員の負担が増加することも考えられますので、導入した場合自社にとってどのような問題点が生じる可能性があるのかをしっかりと把握し、問題点を1つ1つクリアしていく必要があります。
1−2.労働者側事業者側のメリット・デメリット
勤務間インターバル制度を導入すると、事業者側と労働者側にそれぞれどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
【事業者側のメリット・デメリット】
勤務間インターバルを導入すると時間を区切った労働となるため、「労働の効率向上」が期待できます。また、休息時間を一定時間保障することにより、従業員の健康面も確保でき、過労死リスクを抑える効果があります。
さらに、勤務間インターバルを導入していると会社のイメージアップにもつながります。
一方、勤務間インターバル制度はすべての業種に導入することは現実的ではないため、制度に不向きな会社が無理に導入すると逆に従業員の労働効率を下げ、会社の運営の妨げになる可能性があります。
【従業員側のメリット・デメリット】
制度が導入されると、限られた時間内で労働する必要が出てくるため、「労働の効率化」を本気で考えるようになります。また、一定の休息時間が保障されれば、心身を休めることができるようになり、勤務中や通勤中の事故の防止に役立ちます。
一方、「過重労働については制度や補助金で対応するのではなく、義務化して徹底してもらいたい」というのが従業員側の本音といえます。家に持ち帰る仕事が増えたり、タイムカードを押してから残業をするというような状況になる可能性を危惧する声も聞かれます。
2.勤務間インターバル制度導入による助成金詳細
労働時間等の設定の改善を図るために、過重労働の防止や長時間労働の抑制を目的として勤務間インターバル制度の導入に取り組むと、実施に要した費用の一部が助成されます。しかし助成金を受け取るには、支給対象事業主として満たすべき条件や申請期間が定められています。
2−1.支給対象事業主
勤務間インターバル制度を導入し助成金を受け取るためには、次のいずれにも該当する必要があります。
- 労働者災害補償保険の適用事業主であること
- 次のいずれかに該当する事業主であること
- 次のアからウのいずれかに該当する事業場を有する事業主であること
ア勤務間インターバルを導入していない事業場
イ既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
ウ既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場
<出典:厚生労働省>
【支給額】
そして気になる助成金の支給額ですが、休息時間数や導入方法などに応じて金額が異なります。
(1)休息時間9時間以上11時間未満
- 新規導入 :40万円
- 適用範囲拡大:20万円
(2)休息時間11時間以上
- 新規導入 :50万円
- 適用範囲拡大:25万円
- 時間数の延長:25万円
2−2. 導入までの流れ
勤務間インターバル制度を導入するにあたって、まずは「成果目標」を設定する必要があります。事業主が実施計画で指定した全ての事業場において、休憩時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」の勤務間インターバルを導入する必要があります。
具体的には、次の1~3のいずれかに取り組み、目標を達成することになります。なお、いずれの場合においても就業規則などで規定しておく必要がありますので注意しましょう。
- 勤務間インターバルを新規に導入する
まだ勤務間インターバルを導入していない事業所において、その半数を超える従業員を対象とする当該制度を導入する。
- 勤務間インターバルの適用範囲を拡大する
既に当該制度を導入しており、9時間以上の休息時間を保障している事業所において、対象となる従業員が事業場の従業員の半数以下の場合に、対象となる従業員の範囲を拡大して半数を超える労働者にする。
- 勤務間インターバルの時間を延長する
既に当該制度を導入しているが、休息時間が9時間未満である事業所において、事業所の従業員の過半数を対象として休息時間を9時間以上に延長して適用する。
3.助成金申請までを具体的モデルケースで解説
厚生労働省が指定する勤務間インターバルの助成金の対象となる取り組みには、次の6つがあります。
- 就業規則・労使協定等の作成・変更
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家によるコンサルティング
- 労務管理用ソフトウェア機器の導入・更新
- 勤務間インターバル導入のための機器等の導入・更新
例えば、従業員の始業時間・終業時間をしっかり管理するためにタイムカードを導入したり、それを活用するためのシステムを導入したりすることが該当します。
また、外部の社労士などの労務専門家にコンサルティングを依頼し、問題点の把握・原因の分析・今後の対策などを検討し、当該制度を導入するための体制を整備した場合なども該当します。
【勤務間インターバル助成金の申請の流れ】
<出典:厚生労働省 職場意識改善助成金勤務間インターバル導入コースのご案内>
厚生労働省のフローチャートにあるように、受付期間を守るように手続きを進めましょう。今年度は平成30年12月3日(月)が締切となります。なお、勤務間インターバル助成金は国の予算に制約されるため、12月3日以前に受付を締め切る場合がありますので早めに手続きすることをおすすめします。
申請書類の提出先は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)になります。申請の承認・不承認が決定されると通知が届きます。承認された場合は、事業主は承認日から平成31年2月15日までの間に勤務間インターバルに関する取り組みを行うことになります。
そして、承認を受けた改善事業を完了したときから1ヶ月以内か2月末日のどちらか早い方の日までに「職場意識改善助成金申請書」を提出します。
以上が助成金申請の流れになります。
4.助成金申請の注意点
勤務間インターバル制度を導入し助成金を申請するにあたって注意点があります。
【就業規則などへの明文化】
勤務間インターバルを導入するにあたって、就業規則などに明文化しておく必要があります。しかし、導入の仕方によっては36協定、労働契約書、安全管理規定に定めておくことも可能です。
厚生労働省のホームページには規定例が掲載されていますので、大事なポイントを逃さないように一度確認することをおすすめします。
【罰則について】
偽りやその他の不正行為によって事業の実施承認を受けた場合、承認の一部または全部が取り消されることがあります。また、偽りや不正行為によってすでに助成金を受け取っている場合は、助成金を返還するよう求められるケースもあります。
さらに、5年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられることもありますので、偽りや不正行為は厳禁です。
5.まとめ
勤務間インターバルを導入すると従業員に対し一定の休息時間を保障することになるため、従業員の心身の健康を維持する上で大きなメリットがあります。また、業務の効率化を図ろうと従業員も自ずと努力することになるため、生産性の向上にもつながります。
しかし、勤務間インターバルは全ての業種に適しているわけではなく、無理に導入をすると逆に従業員の負担を増加する可能性があります。導入の際は、従業員ごとの適正な業務量を再確認したり、適度な人員確保も視野に入れて改善に取り組む必要があります。
この制度を導入すれば助成金を受け取ることができますが、助成金をもらうために取り組むのではなく、会社の今後の発展に目を向けて前向きに取り入れていきたいものです。