資金調達の方法と言えば銀行などからの「借り入れ」が一般的ですが、実はもう一つ返済不要の資金調達方法があるのです。それが「増資」です。
ビジネスの世界では資本金の額が、その会社の信用度の基準とされることが一般的です。資本金が多くなれば、取引先からのいっそうの信頼を得ることができたり、また新規顧客開拓時に有利に働いたりすることもあります。つまり増資には、経営上でのメリットが多く考えられるのです。
目次
1. 中小企業の資本金増資方法
1−1. 資本金とは
資本金とは、会社が事業のスタート時に、自分で持っている運転資金(自己資本)のことです。当然ながら、資本金が多ければ、会社の資金繰りは楽になりますし、 金融機関からの融資がなくても事業を進めていくことが可能となるわけです。
しかし一方で、設立時の資本金が1,000万円以上ですと、設立初年度から消費税の課税業者となります。資本金が1,000万円未満であれば、消費税は2年間免除されます。創業時の資金繰りが苦しいときに社外流出するキャッシュが増えてしまいます。
スタート時点で運転資金がどれくらいあるかは非常に重要です。設立時の資本金額の設定は注意が必要ということです。
1−2.設立時の資本金の注意
では、会社を設立するとき、会社の資本金額をどのように決められるのでしょうか?実は会社設立時の資本金額が少なすぎた(逆に多すぎた)ために、会社設立後も足かせになってしまうケースが多くあるのです。
会社の戸籍である登記簿謄本の「履歴事項証明」には、設立時からの会社の組織設計図の経緯がすべて掲載されます。設立日はもちろん、設立時の資本金額、設立時の役員構成、設立時の事業目的などすべてが残ります。履歴ですから、あとから変更しても、過去の事実は残ります。とりあえず資本金額はこのくらいで、という決め方をしてしまうと、後に会社が成長して行くときに不利に働いてしまうことがあります。
例えば、 大企業(取引に際しての基準をもっている会社)と取引を開始するとき、会社の資本金が1円だったら?相手への印象はどうでしょうか?あるいは外部から資本を募るとき、外部から出資の申し出があったのに、資本金額が少ない為に資本構成が大きく変わってしまうので出資を断らざるを得ないといったことです。
今は、法律が改正され、会社を設立するときの資本金額の基準は自由になりました。 実際、資本金が1円でも会社は作れます。自由に会社の組織設計ができるようになり、とりあえず会社設立手続きをするといったケースが多く見られます。会社を作ることは簡単にできますが、作った後のことも考えて設立することが実は大事なのです。
1−3.資本金の増資方法
増資には大きく分けて2つの方法があります。一つが、「株主割当増資」です。既存の株主に対して、その株式の保有割合に応じて均等に引き受けてもらう方法で株主構成に大きな変動がないのが特徴です。
もう一つの方法は「第三者割当増資」となります。こちらは、株主以外の第三者にも株式を引き受ける権利を与えます。既存の株主構成に変動がありますので、会社経営に影響を及ぼします。
増資とは、株式を発行することによって資本金の額を増加させる手続きを言いますが、「発行可能株式総数」に注意する必要があります。発行可能株式総数とは、その会社が株式を発行することができる総数です。会社の定款または登記簿謄本で、その会社の発行可能株式総数が確認できます。
この発行可能株式総数を超えて増資(株式の発行)はできません。増資手続きを行う前に自社の発行可能株式総数の確認が必要です。増資後の資本金の額が発行可能株式総数の枠内であれば、すぐに増資手続きを進めることが可能ですが、そうでない場合は、増資手続きに入る前に発行可能株式総数変更の登記を行なわなければなりません。
1−4.減資手続きについて
「減資」とは、例えば、資本金1000万円の株式会社が300万円の減資を行って、資本金を700万円の株式会社にすることを言います。減資の最も効果的な使い方として、赤字の解消が挙げられます。
資本金1000万円の株式会社が、現在、累積赤字400万円を抱えているとします。赤字の400万円と資本金のうち400万円を相殺して、資本金600万円の会社にすることによって、この赤字を消すことができるのです。これが、減資の最も基本的な形です。
減資を行うには、まず株主総会の承認が必要となります。次いで、会社債権者に対する一定の期間(1ヶ月以上)を置いての減資公告、催告をして、この間に債権者から意見を求めます(債権者保護手続き)。なお、減資を行うには、直前期の決算についての決算公示を行うことも必要です。
2. 中小企業の増資メリットデメリット
2−1.資本金300万から1000万にした場合
注意しなければならないのは、税務において、資本金の額が特例適用の判定要素となる場合があることです。このケースの場合は、消費税において注意が必要です。
資本金1,000万円未満の新設法人については、原則として設立後2年間は免税事業者となります(1年目上半期の課税売上高が1,000万円を超える等一定の場合には2年目から課税事業者となります)。
2−2−1.メリット
増資は出資者に金銭等を出資してもらい資本を増やすことですので返済義務のない資金を調達できます。次の4つのメリットが考えられます。
- 長期資金二―ズに有用
返済義務がないため固定資産や研究開発などに有用です。 - 財務基盤強化
自己資本が充実するため財務基盤が安定します。 - 株主支援
株主からの事業支援やブランド力の向上が期待できます。 - 信用力向上
資本金の大きい企業は対外的に信用力が上がります。
2−2−2.デメリット
株主の持分割合は増資など新株を発行することで大きく変化します。これにより経営者自身のシェアが少なくなるという事があり経営支配権の減少につながり、業務執行上の機動力が弱まる可能性が考えられます。
成長に伴い、更なる売上拡大や事業拡大を目指すには経営支配権を十分に考慮した企業の成長戦略に合った資本政策が重要です。特にIPOを目指す企業は、株式上場後を考慮し、特に慎重な政策を取ることが重要です。
3. まとめ
資本金の増資は重要度も高く、その検討内容は多岐に渡り難解ですがが、経営の中で常時出てくるトピックではありません。設立時、増資・減資時などの要所でしか出てきません。しかしながら後々の会社の成長に影響してくるものです。
会社設立時に、あるいは成長のステージに合わせて経営計画を検討し、資本金を決めていくことが大事なのです。