社会保険と労働保険の手続きの流れと加入条件の違いを比較!

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従業員を社会保険や労働保険を加入させるためには、まず会社を適用事業所にするための手続きを行い、それから一定の条件を満たした従業員を加入させる手続きをとります。

社会保険には健康保険、厚生年金保険、介護保険があり、労働保険には労災保険、雇用保険があります。それぞれ、従業員にとって大切な補償となるものであるため、手続きもれのないように、手続きの流れや加入条件などについてしっかりと理解しておきましょう。

 1. 社会保険と労働保険の手続きの流れ

社会保険と労働保険

従業員を雇入れる際には、社会保険と労働保険の加入手続きをとる必要があります。社会保険には健康保険と厚生年金保険があり、労働保険には雇用保険と労災保険があります。 それぞれの保険について加入条件や手続きの仕方が異なりますので、1つ1つ確実に押さえておきましょう。

まずは、各保険の手続きの流れについて①会社立ち上げ後初めて雇い入れた場合の手続き②辞職した従業員に対しての手続き③中途入社の従業員を雇い入れた場合の手続きについてみていきましょう。

 1−1.会社を立ち上げて初めて人を雇った場合

会社を立ち上げて初めて従業員を雇い入れた場合は、会社自体の手続きと従業員に対しての手続きの両方を行う必要があります。まず、会社自体の手続きとしては、労働保険の新規適用、労働保険の概算保険料の申告、社会保険の新規適用の3つの手続きをする必要があります。

そして、従業員に対しては、雇用保険の資格取得、社会保険の資格取得、社会保険の扶養に関する手続きをする必要があります。

【会社自体の手続き】

まずは、会社自体の手続きについて見ていきましょう。

 (1)労働保険

労働保険は、一般的に一部の事業を除き労災保険と雇用保険を1つに合わせて、保険料の算定・納付を一緒に行います。労働保険の適用事業所になった場合、10日以内に「保険関係成立届」を労働基準監督署に提出します。

そして、50日以内に該当する年度の労働保険料の「概算保険料申告書」を労働基準監督署に提出します。保険関係成立届を提出後、事業所設置の日から10日以内に「適用事業所設置届」をハローワークに提出します。

(2)社会保険

設立の事実が生じた日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を年金事務所に提出します。ただし、任意加入事業所の場合は、「任意適用申請書」も併せて提出する必要があります。

 【従業員に対しての手続き】

次に、従業員に対しての手続きも見ていきましょう。

(1)労働保険

雇用保険の手続きとして、雇用した月の翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出します。労災保険については、従業員を雇い入れした時や退職の時などに特別な手続きは必要ありません。年に1回、保険料を算定し納付することになります。

 (2)社会保険

従業員を雇い入れた日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を年金事務所に提出します。また、従業員に扶養家族がいる場合は、「健康保険被扶養者(異動)届」を提出します。

その際、20歳以上60歳未満の被扶養者がいる場合は「国民年金第3号被保険者届」も一緒に提出します。

 1−2. 辞職した労働者の手続き

労働保険や社会保険の手続きが必要になるのは、従業員を雇い入れた時だけではありません。従業員が退職した時も手続きが必要になりますので、ここからは従業員が退職した際の労働保険・社会保険の手続きについて見ていきましょう。

【労働保険の手続き】

従業員が退職した翌日から起算して10日以内に「雇用保険被保険者喪失届」をハローワークに提出します。退職する従業員が「離職票」を必要とする場合は「雇用保険被保険者離職証明書」も提出する必要がありますので、必要かどうか早めに確認しておくことが大切です。

しかし、59歳以上の退職者には離職票は必ず交付しなければなりませんので注意しましょう。また、労災保険については従業員の退職時に特別な手続きをする必要はありません。

保険料はそもそも従業員が負担するべきものではないので清算することもなく、毎年の労災保険の更新時に会社で保険料の清算手続きを踏むことになります。

 【社会保険の手続き】

退職日から5日以内に「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を年金事務所に提出します。その際、健康保険証を添付しなければなりませんので、遅くても退職日には回収することを忘れないようにしましょう。

また、会社がするべき手続きではありませんが、退職者が退職後も健康保険を任意継続する場合は、退職日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申請書」を本人が社会保険事務所に提出する必要がありますので、あらかじめ退職者に説明しておくことをおすすめします。

 1−3.中途入社の労働者を雇った場合

従業員の雇い入れにあたって、中途入社の労働者を雇い入れる場合もあります。中途入社の場合の労働保険・社会保険の手続きは会社自体の手続きが済んであれば、従業員に対する手続きを行うだけになります。

手続き内容は「会社を立ち上げて初めて人を雇った場合」のところでご説明した手続きと同様の手続きをとります。労災保険については特にとるべき手続きは無く、雇用保険については採用月の翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出します。

社会保険については、雇い入れ日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」必要があれば「健康保険被扶養者(異動)届」と「国民年金第3号被保険者届」を併せて年金事務所に提出します。

なお、従業員が40~64歳までの場合には介護保険料を健康保険料と一緒に徴収することになりますが、介護保険への加入手続きを行う必要はありません。

2.社会保険と労働保険の加入条件の違いを比較

社会保険と労働保険2

社会保険と労働保険の手続きの流れについてはお分かりいただけたと思います。ここからは、社会保険と労働保険の加入条件にはどのような違いがあるのか比較しながら確認していきます。

2−1.社会保険

従業員が社会保険に加入するためには、まず会社が社会保険の適用事業所となる必要があります。まずは、会社が社会保険適用事業所となるための条件についてみていきましょう。

【会社に社会保険を導入するための条件】

会社に社会保険を導入するにあたっては、強制的に適用事業所となる「強制適用事業所」の場合と任意に適用していい「任意適用事業所」の場合とがあります。

強制適用事業所となるのは次の2つの条件に該当する事業所で、事業主や従業員の意思に関わらず、社会保険への加入が義務付けられ、未加入だと法律で罰せられることになります。

<強制適用事業所の条件>

  • 事業主を含め従業員が1人以上いる会社、国や地方公共団体などの法人
  • 常時使用される従業員が5人以上いる個人事業所(一部業種を除く)

また、強制適用事業所にあてはまらなくても、従業員の半数以上が社会保険の適用事業所になることに同意しており、厚生労働大臣の認可を受けることができれば任意適用事業所となり、社会保険に加入することができます。

【従業員が社会保険に加入する条件】

会社が社会保険適用事業所になれば、従業員が社会保険に加入することができるようになります。しかし、全ての従業員が社会保険に加入できるわけではなく、一定の条件を満たした従業員が加入対象となります。

社会保険の「強制加入対象者」は、社会保険の適用事業所に常時使用される70歳未満の人で、報酬額・国籍・性別・年金受給の有無にかかわらず強制的に加入することになります(ただし、70歳以上の従業員は健康保険のみの加入となります)。

具体的には、事業主、役員、正社員、パート、アルバイト、外国人従業員などが当てはまります。なお、パートやアルバイトは労働時間や日数が正社員に比べて短いことが多いため、次の要件を満たした場合に社会保険に加入することになります。

<パート・アルバイトの加入条件>

(1)1週間の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が正社員の3/4以上

(2)(1)の要件を満たしていない場合でも、以下の全てにあてはまる

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 勤務期間が1年以上あるか、またはその見込みがある
  • 月給が8万8千円以上
  • 学生ではない
  • 従業員が501人以上の企業

パートやアルバイトでも上記の条件を満たしている場合には社会保険に加入させなければなりませんので注意が必要です。

2−2.労働保険

保険や労災保険に加入するためには、まず会社がそれぞれの適用事業所になる必要があります。

【雇用保険】

従業員を雇用保険に加入させるためには、会社が雇用保険適用事業所になるための手続きをとらなければなりません。

<事業所における加入条件>

従業員を1人でも雇用している事業所は、雇用保険適用事業所になるため、加入条件を満たす従業員を加入させなければなりません。

<従業員における加入条件>

  • 正社員
    すべて雇用保険に加入します。以前は65歳までという年齢制限がありましたが、2017年からは年齢制限が撤廃されたため、65歳以上の従業員も対象となりました。
  • パート、アルバイト、派遣社員など
    週の所定労働時間が20時間以上で、継続して1ヶ月以上雇用される見込みがある場合はパートやアルバイトなどでも雇用保険に加入させる必要があります。
  • 季節労働者
    1年間の中で4ヶ月以上の雇用契約期間があり、週の所定労働時間が30時間以上の場合は「短期雇用特例被保険者」に該当するため加入させる必要があります。
  • 日雇い労働者
    1日だけの勤務や30日以内の雇用期間の日雇い労働者でも、加入手続きをすれば「日雇労働被保険者」として加入させることができます。また、日雇いとして1ヶ月以上継続して勤務する場合は、一般被保険者として他の従業員と同様に加入させます。

【労災保険】

労災保険についても、会社における加入条件や従業員における加入条件についてみていきましょう。

<会社における加入条件>

従業員を1人でも雇っている事業所は、労災保険に加入しなければなりません。

ただし、次の事業所は労災保険の適用外となります。

  • 官公署の事業のうち非現業のもの
  • 国の直営事業所
  • 船員保険被保険者

これらは、他の法律により補償されているので、労災保険の適用外となっています。

<従業員における加入条件>

労災保険は正社員、パート、アルバイト、派遣労働者、日雇いなど、雇用形態に関わらず全ての従業員が対象となります。しかし、請負という労働形態の従業員や事業主・役員などは加入することができません(役員で事業主のもとで仕事に従事し賃金を得ている場合は労災の対象になります)。

3.社会保険、労働保険の加入に関する注意点

社会保険や労働保険に加入する際に気を付けるべき注意点についてご説明します。

【労働保険について】

強制適用事業所に該当する場合は、必ず手続きをする

労働保険は強制適用事業所となる条件が定められています。中には「民間の保険に加入しているから補償は問題ない」と判断している事業主の方もいらっしゃいますが、国が定める強制保険なので民間の保険をメインとするのではなく、あくまでも労働保険がメインでプラス民間の保険と考えるべきです。

労災保険の加入時の「業種区分」について

労災保険を会社に適用する際に、「業種区分」を選ぶことになりますが、この業種区分によって保険料が大幅に異なってきます。労働基準監督署でも確認をしますが、区分が異なれば保険料率も異なり保険料に大きな影響がありますので、会社でもしっかり確認をしておきましょう。

【社会保険】

国民健康保険・国民年金の脱退手続について

会社が社会保険適用事業所になると、従業員はそれまで加入していた国民健康保険と国民年金を脱退することになります。社会保険の健康保険証が発行されたら、従業員が居住地の市区町村役場で国民健康保険の脱退手続を行います。

国民健康保険の脱退においては会社側の手続きは必要なく、従業員が各自行うことになりますが、手続きもれのないように会社から説明しておくと従業員も安心するでしょう。

また、国民年金の脱退手続は特にすべきことはありません。国民年金・厚生年金のデータは共に日本年金機構で一元管理されているため、社会保険に加入すると国民年金から厚生年金に移行したものとして変更されます。

パート・アルバイトなどの社会保険適用について

事業主の中には、パートやアルバイトには社会保険の適用はないと認識されてる方が少なくありません。しかし、法律上はご説明したとおりの条件を満たしているパートやアルバイトは社会保険に加入させなければなりません。

社会保険の加入対象でありながらも手続きがされてないと、従業員にとって将来受け取れるはずの年金が受け取れないなどの非常に不利益な状況になってしまうので、雇い入れる際は慎重に判断する必要があります。

4.まとめ

従業員を社会保険や労働保険に加入させる場合は、まず会社を適用事業所とする必要があります。それぞれ届出の期日が限られていますので期日を確認するとともにできるだけ早く手続きをすることが望ましいです。会社が社会保険や労働保険の適用事業所となれば、従業員をそれぞれの保険に加入させることができます。

その際、加入するための条件が定められていますので、従業員ごとに確認し、手続きもれのないように注意しましょう。特に、パートやアルバイトなどを社会保険に加入させる際は手続きもれとなることが少なくありませんので念入りな確認が必要とされます。

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