経営者にとって割増賃金の支払いは非常に悩ましい問題です。労働時間を的確に把握する必要があったり、コストがかかったりと頭を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ここでは、どのような場合にこれらの割増賃金を支払わなければならないのか明らかにするとともに、モデルケースを使って具体的にどのように割増賃金を算出していくのかについて説明していきます。
残業代にまつわるトラブルは年々増加しており他人事ではありません。ここで、割増賃金についてしっかりと確認しておきましょう。
目次
1.割増賃金とは
割増賃金は、一般的に残業代や残業手当と呼ばれているもので、時間外労働に対して支払われるものです。そもそも労働基準法では、労働時間について1日8時間以内1週間で40時間以内と定められており、この時間を超えた部分の労働を労働外時間といいます。
使用者は、時間外労働に対して一定率を掛けた割増賃金を支払わなければなりません。では、どの時間帯の労働が割増賃金となるのか、具体的な乗率はどの位なのか、割増賃金の算定から除外される賃金にはどのようなものがあるのかについて、詳しく説明していきます。
1−1.どの時間帯が割増賃金となる!?
【時間外残業】
時間外残業は、労働基準法で定められた「1日8時間1週間で40時間」の労働時間を超えた部分の労働をさし、割増賃金が発生します。例えば1日8時間労働に対し10時間働いた場合には、2時間の時間外労働として割増賃金を支払います。
【深夜労働について】
労働基準法には、深夜労働を制限させることを目的として、午後10時から翌日5時までの時間帯に労働させた場合は「深夜手当」ともいわれる割増賃金を支払うことが定められています。
【休日労働について】
労働基準法では、労働者の健康の面から1週間に1日以上または4週間に4日以上の休日を与えることを義務付けており、これを「法定休日」といいます。法定休日に労働すると「休日労働となり、「休日手当」などといわれる割増賃金を支払わなければなりません。
1−2.割増賃金の率は
では実際に割増賃金率はどの位になるのか見ていきましょう。
- 時間外残業:2割5分(25%)以上の割増賃金
- 深夜労働 : 〃
- 休日労働 :3割5分(35%)以上の割増賃金
さらに、例えば時間外残業が深夜労働と重なった場合は5割、休日労働と深夜労働が重なった場合は6割の割増賃金を支払うことになります。また、労働契約で「割増賃金は支払わない」旨の契約を交わしていたとしても法律違反となりますので、その部分は無効になり割増賃金は支払わなければなりません。
1−3.割増賃金の算定から省かれる賃金とは
割増賃金を算出する場合は、まず基礎賃金を求める必要があります。
基礎賃金には家族手当や通勤手当のような個人の属性による手当が含まれるため、これらを基礎賃金に含めて時間単価を算出してしまうと、労働者間で差が出てしまい公平な時間単価を算出することができません。 そのため、労働基準法では基礎賃金から除外する手当を定めています。
除外できる手当は次のとおりです。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
2. 割増賃金の計算方法をモデルケースで分かりやすく
では具体的な割増賃金の計算方法について、モデルケースを使って見ていきましょう。月給制社員の場合、歩合制などの出来高払いがある場合、完全歩合制のタクシー運転手の場合の3つのケースについて説明します。
2−1.ケース1<月給制社員の場合>
まずは通常の月給制社員の場合について説明します。
【モデルケース】
- 月給:基本給24万円
- 1日の労働時間:8時間
- 年間休日:125日
割増賃金を求めるには、まず通常の時間単価を求める必要があります。
- 通常の労働時間単価
通常の時間単価は、年間の総労働時間数を求めた後、月あたりの平均労働時間数を算出します。さらに、基本給を月間の総労働時間数で除して1時間あたりの労働時間単価を求めます。
- 年間労働日数 :365日-125日=240日
- 年間労働時間数 :8時間×240日=1,920時間
- 月間平均労働時間数:1,920時間÷12ヶ月=160時間
- 賃金の時間単価 :24万円÷160時間=1,500円/時間
このモデルケースでの賃金の時間単価は1,500円になります。
- 割増賃金の計算
1で求めた時間単価を元に、時間外労働、深夜労働、休日労働についての時間単価を求めます。
- 時間外労働:1,500円×1.25=1,875円
- 深夜労働 :1,500円×1.25=1,875円
- 休日労働 :1,500円×1.35=2,025円
【参考】
- 時間外労働+深夜労働:1,500円×1.50=2,250円
- 休日労働+時間外労働:1,500円+1.60=2,400円
2−2.ケース2<歩合制などの出来高払いがある場合>
歩合制などの出来高によって支払われる給与は、前述の法定除外賃金には当てはまらないため、割増賃金の基礎賃金に含めて計算します。
【モデルケース】
- 給与:基本給15万円、歩合給10万円、合計25万円
- 月の所定労働時間数:176時間
- 実際の労働時間数 :196時間(20時間残業)
【割増賃金の計算】
- 基本給:15万円÷176時間×1.25=1,065円(小数点以下四捨五入)
- 歩合給:10万円÷196時間×0.25(注)=128円( 〃 )
(1,065円+128円)×20時間=23,860円
よって、割増賃金は23,860円となります。
(注)なぜ「0.25」かということについてですが、出来高払いなどの賃金では時間外労働に対する時間当たりの賃金(1.0の部分)はすでに賃金総額の中に含められているため、追加する賃金額は計算された額の2割5分(0.25)であれば足りるという理論によります。
2−3.ケース3<タクシー運転手の場合>
タクシー運転手などの完全歩合制の場合、割増賃金が支払われていないことが多くみられます。しかし、完全歩合制の場合でも、1日8時間1週間40時間の労働時間を超えた部分に対しては割増賃金を支払わなければなりません。
同様に、深夜労働の場合は2割5分増しの賃金を、休日労働の場合は3割5分増しの賃金になります。「完全歩合」という名のもとに割増賃金がうやむやにされるケースが多くみられますが、時間外労働などに対して適正に支払わなければなりません。
3. 知らないじゃ済まされない!割増賃金の注意点
労使間トラブルでは、残業代などの支払いについてのものが非常に多く見られます。支払うべきものをきちんと支払わずにいると裁判に発展することも考えられます。
企業にとってリスクを回避するためにも、割増賃金を計算する上での注意点を確認しておきましょう。
- 年俸制での割増賃金の取り扱い
年俸制や完全月給制を採用している労働者に対して、「年俸制(完全月給制)なのだから残業代などの支払いは不要」と考えている方がいますが、その理屈は通用しません。しかし、残業代などの支払いは必要ですが、その反面遅刻や欠勤があった場合にはその分を賃金から差し引くことができます。
- 管理監督者の割増賃金の取り扱い
管理監督者には基本的に残業代は支払わないという企業は多いですが、深夜労働に関しては2割5分の割増賃金を支払わなければなりません。
- 労働時間が2日間にわたる場合
原則的には、始業時間が属する日の時間外労働時間として算定します。そして、翌日の所定始業時間以降まで労働した場合は、所定の所定始業時間までが該当します。
- 割増賃金算定における控除諸手当について
割増賃金を算定する際に控除できる手当はすでに説明しましたが、それに該当しない手当は全て基礎賃金に含めなければなりません。諸手当はすべて除外するわけではないので注意が必要です。
- 残業時間の端数処理について
残業時間を集計する際、1日ごとに端数処理をしてはいけません(例えば15分未満は切り捨てるなど)。残業時間は、1ヶ月の総残業時間に対してのみ端数処理を行い、端数処理をどのように行うのかは就業規則に定めておくことが必要です(例えば30分未満は切り捨てるなど)。
4.まとめ
割増賃金は、時間外労働で2割5分増し、深夜労働で2割5分増し、休日労働で3割5分増しの割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金においては、その計算方法はもちろんのこと、各労働者がどの位時間外労働などをしているかをきちんと把握することが大切です。
深夜労働や休日労働が割増賃金になるのは、労働者の心身の健康面を考慮したものともいえます。経営者には、割増賃金を支払うというコスト削減のために時間外労働をなるべく減らす努力をしたり、支払うべき割増賃金は適正に支払うことが求められます。