法人の役員でありながら、従業員(営業部長や工場長など)としての身分の者を、税法上では使用人兼務役員と呼びます。一定の制限はありますが、使用人兼務役員の制度は、会社にとっては節税メリットが生じ、また就任する社員にも雇用保険の担保などでモチベーションアップに繋るなど、双方にメリットがある制度なのです。
目次
1.使用人兼務役員は役員と従業員のいいとこどり?
1−1.役員と何が違うの?
使用人兼務役員は、取締役営業部長や取締役管理部長といった、使用人としての肩書を有する取締役のことです。純粋な役員の場合には雇用契約ではないため、従業員が使える制度が使えないなど様々なデメリットがありますが、兼務役員は役員としての経営決定権を持ちつつも、合わせて従業員として各種制度の利用が可能となるとういう利点を持っているのです。
使用人兼務役員は法人税法では、次の3つの要件を満たすこととされています。
- 役員(社長、理事長その他政令で定めるものを除く)であること
- 使用人としての職制上の地位を有していること
- 常時使用人としての職務に従事していること
1−2.メリット・デメリット
メリット
1.役員なのに労働保険に加入できる
役員は原則として労働保険(雇用保険+労災保険)に加入することができません。従業員は加入できます。そのため、従業員でもある使用人兼務役員は、その「従業員部分」について加入できるのです。
2.給与額の変動が可能
原則、役員報酬は毎月定額です。なぜなら、定額にしておかないと変動分が税務上では損金にならないからです。対して、使用人兼務役員の「従業員部分」の給与は毎月変動させても損金にすることが可能です。
3.賞与の支給も可能になる
賞与も実態は臨時の給与ですから、役員に対する賞与は原則として全額が損金となりません。しかし、使用人兼務役員の「従業員部分」の賞与は、損金にすることができます。
会社にとっては役員に対する賞与の一部を損金に出来るので、節税につながるわけです。
デメリット
1.労働基準法の適用事業としての義務が発生
取締役を労働者として取扱うことになるので、会社は労働者基準法に基づく適用事業となります。それに伴って監督署への「適用事業報告」「36協定」の届出や「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の整備などの様々な義務を負うことになります。
また、使用人兼務役員は、役員としての任期を終えても従業員としての地位は残ります。そのため、たとえばその使用人兼務役員と揉めて解雇したい場合が発生した場合でも従業員解雇の手続きに従わなければなりません。
2.「使用人部分」と「役員報酬部分」に明確に区分すること
使用人兼務役員の給与は、「使用人部分」と「役員報酬部分」に明確に区分し、「使用人部分」は、使用人の給与規定に従って支給します。また、使用人兼務役員分の賞与は、他の従業員と同じタイミングで支払わないと損金として認められないので注意が必要です。
2. 使用人兼務役員になるための条件
使用人兼務役員になるには?
肩書きでは「~部長」でも、使用人兼務役員になれない場合があります。いくつか条件はありますが、一般的な要件は次のとおりです。
- 代表取締役や専務取締役、そして常務取締役のように、役員としての職責しかないと判断できる役員
- 従業員は時間的拘束を受けるが、時間的拘束がない非常勤役員
- 監査役などのように、明らかに使用人とは言えない役員については、肩書きを問わず使用人兼務役員になることはできません。
- 同族経営の法人の役員のうち、所定の株式数を持っている者は、会社に対する支配権が強いということで使用人兼務役員になれません
(詳細は国税庁ホームページ https://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5205.htm )
3. 使用人兼務役員の節税方法
1.従業員兼務役員の給与で節税する
役員報酬を期中で支給額を変更すると、原則的に全額が損金不算入となります。ところが、従業員兼務役員の場合、従業員分の給料については、期中でも支給額の変更が可能です。
また残業手当や歩合給などを適宜支給することも可能ですし、昇給や減給をすることも可能です。弾力的に支給できて、節税に繋がります。なお、従業員分の給料は、他の従業員と同一の基準で支給する必要があります。
2.従業員兼務役員の賞与で節税する
役員賞与を支給した場合、原則的に全額が損金不算入です。事前確定届出給与を活用すれば、損金に算入しつつ、役員賞与のように年数回支給することが可能ですが、事前に金額と支給日を税務署に届け出る必要があるので、弾力的な支給は困難です。
一方、従業員兼務役員の場合、従業員分の賞与は、全額が損金に算入されます。こちらも弾力的に支給できるので、節税に繋がるわけです。
3.従業員兼務役員の退職金で節税する
従業員兼務役員に対して、従業員分の退職金を支払うことが可能です。退職所得は税制優遇されるので、節税対策として優れています。尚、従業員分の退職金が支給できるのは、以下のいずれかの時期です。
- 従業員が兼務役員になったとき。
- 従業員兼務役員が役員になったとき。
両者とも退職金を支給した事業年度に損金算入します。
4.使用人兼務役員に関する手続きの流れ
使用人兼務役員になった時点で、ハローワークに「兼務役員雇用実態証明書」を忘れずに提出しなくてはなりません。提出していないと、将来退職時の失業手当を受け取れなく場合があります。その手続きの際には次の確認資料の提出が必要です。
【必要書類】
登記簿謄本、定款、役員就任に関する議事録、就業規則・賃金規程、役員報酬規程、出勤簿・賃金台帳(いずれも就任前後3ヶ月程度)、労働者名簿、人事組織図、雇用保険被保険者資格取得等確認通知書等。
管轄のハローワークによっては確認資料の内容が多少異なる場合がありますので事前に確認してください。
5.その他注意点
使用人兼務役員の給与から雇用保険料を控除する際は、役員報酬分を除いて保険料率をかけることに注意します。また、本人が退職した際に雇用保険資格喪失手続きを行いますが、離職票を作成する際も役員報酬分が入っていないことを確認する必要があります。
なお、使用人兼務役員ではなく専任の取締役になった場合には、雇用保険の資格喪失手続きが必要です。
6. まとめ
使用人兼務役員の制度は、会社にとっては節税メリット、当人にとっては社員としての優遇が受けられる双方にとってメリットが多い制度です。但し、その運用には注意すべき点も多数あるので、実際に導入する際はまず、税理士等に相談するようにしましょう。
ポイントをおさらいすると、
- 役員でも労働保険に加入することが可能、また賞与を損金にできる。
- ただし適用要件があり、役所での手続きも必要。
- 兼務役員にした後も、税法以外の法律も確認が必要。
但し、その運用には注意すべき点も多数あるので、実際に導入する際はまず、税理士等に相談するようにしましょう。特に給与の支払いについては注意が必要です。
使用人兼務役員に支給する給与は、使用人分と役員分とを別々に算定根拠を作ることが必要で、使用人分給与は、給与規定を整備し、その規定に従って支給することが重要となります。会社の設立にあたってはしっかり準備をして正しい運用ができるようにすることが大事です。