簡単にクビに出来ない?従業員を解雇出来ないケースの具体例

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「あぁ!この従業員クビにしたい!」

こんなことを思ったことはありませんか?

遅刻や無断欠勤を繰り返したり、暴言や悪態で職場の環境を乱したり、問題のある行動をとる従業員には頭を悩ませてしまいますね。しかし、いくら問題行動が多い従業員でも、会社は簡単に「クビね!」とは言えないのです。

ではどうすれば従業員を解雇できるのでしょうか?

ここでは、従業員を解雇するための条件や、解雇する際の注意点などについてご説明していきます。

 1.会社は簡単に従業員を解雇出来ない?

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従業員は「同じ会社の仲間」ではありますが、正直なところ「解雇したい」と思う従業員もいることでしょう。また、会社の業績が悪化した時など、やむを得なく従業員を解雇せざるを得ない状況に陥るのもゼロとはいえません。

解雇には4つの種類があり、会社の一方的な都合で解雇を行うことはできず、それぞれ要件を満たさなければなりません。ではさっそく、「解雇」の定義やそれぞれの解雇の要件を確認していきましょう。

1−1.解雇に関して

「解雇」とは、会社から従業員に対して一方的になされる労働契約の解除のことをいいます。その際、従業員側からの承諾は必要でないため、従業員と会社との合意によって労働契約を終了する「合意解約」や従業員の意思による退職(「自主退職」など)とは異なります。

解雇を行うには、定められた要件をクリアしなければならず、客観的にみて合理的な理由があり、社会通念上相当と認められることが必要だと法律にも定められています。労働者保護の観点から、会社の一方的な都合で簡単に解雇をすることはできません。

 1−2.解雇の種類など

一言で「解雇」といっても、解雇には大きく分けて普通解雇と懲戒解雇の2つがあり、さらに普通解雇には整理解雇、諭旨解雇の2つがあります。それぞれどのような解雇を指すのかご説明いたします。

【普通解雇】

普通解雇に該当する解雇理由には、次のものが挙げられます。

  •  病気やケガで労働することができない
  • 著しく職務怠慢である
  • 業務を妨害している
  • 暴力や暴言がひどい

これらの事由にあてはまる場合でも、無条件で解雇できるわけではなく、解雇について理由や程度について就業規則に定めておく必要があります。

さらに、それらの状態が実際の業務にどの位影響しているのか、当該従業員に対して継続的な注意や教育が行われているか、解雇理由に当てはまるかなどを慎重に考慮し、解雇を行うことになります。

 【整理解雇】

整理解雇は、業績の悪化などを原因とする人員整理をするために行う解雇です。いわゆる「リストラ」がこれに該当します。

整理解雇を行うためには、次の4つの要件を慎重に検討する必要があります。

  • 今本当に従業員数を削減する必要があるかどうか
  • 人員整理をする以外に対策をとったか
  • 解雇対象者の選び方は公平か
  • 従業員に充分に説明し、話し合いの場を設けたか

整理解雇に妥当性を持たせるためには、「経営悪化→整理解雇」と簡単に事を進めずに、人員整理以外の対策を出来る限り施したかが大切といえます。

 【諭旨解雇】

諭旨解雇は、本来であれば懲戒解雇となるべき従業員を普通解雇処分としたり、自発的な退職を勧めることで、懲戒解雇に情状酌量を持たせた解雇をいいます。しかし、自発的な退職を勧めるといっても、無理やり辞めさせたり高圧的な退職勧告をすることは違法になるので注意が必要です。

 【懲戒解雇】

懲戒解雇は、従業員が次の項目に該当した場合に行われます。

  •  横領したとき
  • 職務上で不正行為を行ったとき
  • 重大な過失を犯したとき
  • 業務の妨害をしたとき
  • 犯罪を犯したとき

しかし、懲戒解雇も無条件に行えるわけではなく、懲戒の種類や程度などを就業規則に定め、かつ従業員に周知させておかなければなりません。懲戒解雇では、退職金が支給されず、再就職先を見つけるのも非常に難しくなります。

1−3.簡単に解雇出来ないのはなぜ

労働契約法16条では解雇に関して次のように規定されています。

“解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする”

職を失うということは、従業員にとっては生活が立ち行かなくなることを意味し、大変大きなダメージとなります。会社は問題のある従業員を1人辞めさせただけのことであっても、その従業員の受ける不利益は大変なものです。 そこで労働者を保護する必要がでてくるわけです。

 2.従業員を解雇出来ないケースの具体例

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従業員を解雇できないケースは細かく分けるとたくさんありますが、具体的な例として主なものを5つご説明します。

2−1.労働基準監督署等への申告した

従業員が、会社が労働基準法に違反している事実を労働基準監督署等に申告したことを理由とした解雇は許されません。

2−2.労働組合の組合員である等

従業員が、労働組合の組合員であったり、労働組合に加入したり、新規に労働組合を結成しようとしたり、労働組合として正当な行いをしたことを理由にした解雇は許されません。

2−3.出産・育児休業等の取得

女性従業員が、結婚、妊娠・出産、産前産後にかかる休業申請をしたことを理由にした解雇は許されません。また、育児休業を申請した従業員に対しても同様です。

2−4.妊娠・出産した従業員

妊娠中の女性従業員や出産後1年を経過していない女性従業員に対して行われる解雇は原則として認められません。当該解雇が、妊娠・出産が原因でない場合は、会社はその旨を証明する必要があります。

2−5.ケガや病気の場合

従業員がケガや病気のために業務に就けない場合、すぐに解雇することは許されません。ケガや病気の療養のために取得した休業期間とその後30日間は解雇することができないと定められています。

3.解雇するための条件とは

前出の労働契約法16条にもある通り、労働者の権利は厚く保護されているため、解雇を行うには会社は次に挙げる5つの条件を全てクリアする必要があります。

【法律で定められた解雇禁止事項に当てはまらないこと】

「解雇できないケース」でもご紹介ましたが、ケガや病気による休業期間とその後30日間の解雇や、労働組合の組合員である等を理由にする解雇は法律で禁止されています。解雇の理由が法律で定められた禁止事項に当てはまらないことが条件となります。

【法律で定められた解雇予告を行う】

従業員を解雇する際は、「解雇予告」を行うことが義務付けられています。会社は、該当する従業員に対して少なくとも30日以上前に解雇の予告をする必要があり、予告をしない場合は「解雇予告手当」を支払う必要があります。

*解雇予告手当:30日分以上の平均賃金

【就業規則の解雇事由にあてはまる】

従業員が10人以上の会社には、就業規則を作成し労働基準監督署に届け出る必要があり、そこには「解雇の事由」について明記されている必要があります。就業規則に「解雇となる事由」を具体的に明確に示しておくと、トラブルに発展するリスクを減らすことができます。

ただし逆をいえば、就業規則に定められていない事由による解雇は無効となってしまうので注意が必要です。

【正当な理由がある】

就業規則に定められた事由による解雇であっても、その度合いによっては解雇に値するかどうかの判断が難しいケースもあります。例えば「職務怠慢」といっても、具体的にどの位怠慢であれば解雇になるのかの判断は難しいところです。

もし従業員が解雇に納得できず裁判になった場合でも、会社としてきちんとした説明ができるように、詳しい理由を記録しておきましょう。

【手順を踏む】

解雇関係でのトラブルでは「いきなり解雇された!」というケースが少なくありません。会社としては解雇となる根拠が十分にあるとしても、従業員にいきなり解雇を先行すると不要なトラブルのもとになります。

解雇処分を下す前に、何度か注意や指導を行い様子を見、改善されないようなら減給などの徐々に重い処分を下し、それでも改まらないようであれば解雇というように、手順を踏んで進めることが大事です。

4. どうしても辞めてもらいたい従業員がいる場合どうする

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問題のある従業員を解雇する際、簡単に解雇するわけにはいきませんが、それでもどうしても辞めてもらいたい従業員がいる場合はどうすればいいでしょうか?

後に不当解雇トラブルに発展しないように、リスクを抑えた正しい解雇方法について、普通解雇と懲戒解雇に分けてご紹介します。

【普通解雇の場合】

  1. 「解雇したい」旨を会社内の幹部や解雇したい従業員の上司に伝える
    社長だけでなく会社全体が本人の解雇について合意しているという姿勢をはっきりと示すことが大切です。
  2. 解雇理由をまとめる
    解雇する理由を本人に伝える際に、分かりやすくかつもれなく伝えられるように、まとめておきます。感情的になってしまいそうな時でも、メモがあれば冷静に対応することができます。
  3. 「解雇通知書」を作成する
    雇用通知書は、本人に解雇を宣告した後に渡す必要があります。得に決まった書式はありませんが、「解雇する年月日」と「解雇の理由」は必ず記載しなければいけません。
  4. 解雇したい従業員と面談し解雇を伝える
    会議室など業務の場ではない場所で本人と面談し、解雇する旨を伝えます。本人からの反論や言い分にも耳を傾け、作成しておいたメモを参考に冷静に対応しましょう。
  5. 他の従業員にも解雇があったことを伝える
    「解雇」は従業員にとって少なからず動揺を与えることなので、動揺を抑えつつも再度職場をまとめていく力が必要になります。

【懲戒解雇】

  1. 就業規則の「懲戒解雇」について確認する
    これから行う懲戒解雇が就業規則で明記されているか確認します。
  2. 弁明の機会を与える
    本人に「今現在懲戒解雇について協議中」ということを伝え、そのことについての本人の意見を聴きます。仮に、不当解雇裁判になった際、弁明の機会があったかどうかは不当解雇にあたるかどうかの大きなポイントになりますので、必ず機会を与えるようにします。
  3. 懲戒解雇する旨を幹部や本人の上司にも伝える
    後に不当解雇裁判になった際、会社が一つになって対応していけるように、会社全体が懲戒解雇について理解していることが重要です。
  4. 解雇通知書を作成する
    懲戒解雇における解雇通知書には、「解雇する年月日」「就業規則の条文」「懲戒解雇の理由」について明記する必要があります。
  5. 解雇する従業員と面談し解雇を伝える
  6. 他の従業員にも解雇があったことを伝える
    5.・6.は、普通解雇と同様に進めます。

5. 解雇における経営者側の注意点

ここでは解雇における注意点をまとめておきます。

5−1.助成金に関して

助成金は、まとまった資金を受け取ることができしかも返済不要なので、活用している会社や活用を検討している会社も多いでしょう。しかし注意して下さい。従業員を解雇してしまうと助成金が受給できなくなるケースがあります。

といいますのも、助成金は雇用機会の維持や拡大を目的としたものであるため、解雇はその対極に位置するといえます。そのため、従業員を解雇した企業には一定期間助成金の受給を制限する要件が規定されています。

制限される期間は助成金の種類によって異なります。助成金の申請を考えている場合や、今まさに申請中という場合は、解雇のタイミングを計る必要があります。

5−2.就業規則に関して

従業員を解雇する場合には、就業規則に「解雇の事由」について詳しく定めておく必要があります。解雇の事由については、「このような行為は解雇に該当する」ということを分かりやすく記載しておくようにします。

できるだけ詳しく具体的に列挙しておけば、それだけトラブルを回避することができます。また、解雇したい従業員がいても、その理由が解雇の事由に定められてないと解雇の事由にあてはまらないため、解雇することができなくなってしまいます。

就業規則は従業員が10人以上の会社では作成と届け出が義務とされていますが、10人未満の会社では義務付けられていないため、作成されていないケースが少なくありません。

就業規則がなくても解雇はできますが、トラブルになるケースが高くなるため、10人未満の会社においても就業規則を定め、解雇の事由についても詳しく記載しておくことをおすすめします。

5−3.労働者側からの訴え

労働者側から「不当解雇」として訴えられないように、いきなり解雇を言い渡すというようなことはせず、解雇は最終手段として段階的に指導・教育・処分などを行っていきましょう。

問題行動がある従業員に、その都度注意・指導を行い、改善されなければ出勤停止や減給などの処分を行うなど、徐々に厳しく対応していきます。その際、注意・指導・処分の内容や問題のある従業員の態度などを詳しく記録しておきましょう。

しかし、このように段階を踏んで解雇に向けて対応していっても、訴えてくる従業員もいます。もし裁判になった場合には、会社として適切な対応をとってきたことを強く主張し、解雇への経緯を記録したものを証拠として提出しましょう。

そして裁判に勝つためには、企業法務専門の弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士費用はかかりますが、もし裁判に負けてしまうと「不当解雇をした会社」というレッテルが貼られてしまいます。

やはり専門家に依頼して有効なアドバイスをもらうとより安心です。

6.まとめ

どんなに問題行動がひどい従業員でも、会社は簡単に解雇を言い渡すことはできません。従業員は「労働者保護」の観点から、法律でその権利が厚く守られています。よって、解雇をする際には会社側も法律に則った方法で進めていく必要があります。

就業規則に「解雇の事由」を具体的に明記したり、問題のある従業員に注意・教育を繰り返し行ったり、それでもだめなら徐々に重い処分を課していくなど、解雇に向けて段階を踏んで慎重に進めていくことが大切です。

不当解雇裁判などに発展しないように、対処に困ったら企業法務に詳しい弁護士に依頼すると安心です。

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