中小零細企業であれ大企業であれ、生産性を上げて継続的な売上増進を図りたいのは皆一緒です。しかしそう簡単に行かないのが世の中というもので、生産性を上げようとすれば人件費というランニングコストも一緒に増加します。
しかし、その企業のジレンマに一筋の光明となったのが「キャリアアップ助成金」制度です。融資と異なり返済のない必要のない助成金の受給は、単純に企業のプラス・マイナスの損益計算上で見ても、まごうことなく「プラス概念」となるものです。利用できる助成金制度を使わない手はありません。
ここでは主に、中小企業に係る最新の「キャリアアップ助成金」について分かり易く解説していきます
1.キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金とは、今日、労働者人口の減少が見込まれる日本において、一人一人の労働者の能力を高め、生産性(付加価値)を上げて経済の活発化を図ろうと、政府が平成25年度に打ち出した制度のことです。
具体的には、有期契約労働者・短時間労働者(期間従業員やアルバイト・パート)、派遣労働者といった「非正規労働者」の企業内でのキャリアアップ等を促進するため、ある一定期間、「正社員化」、「人材育成」、「処遇改善」の取組みを実施した事業主(企業)に対して助成金を支給する制度です。
この制度には
- 「正社員化コース」
- 「人材育成コース」
- 「賃金規定等改定コース」
- 「健康診断制度コース」
- 「賃金規定等共通化コース」
- 「諸手当制度共通化コース」
- 「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」
- 「短時間労働者労働時間延長コース」
の8つのコースがあり、前もって計画(3年~5年)を作成し、労働局に提出して受給資格の認定を受けておく必要があります。
参照:厚生労働省・リーフレット(H29年)より
※中小企業の場合は大企業に比べて約1.3倍の助成額となります。
この助成金制度で対象となる「中小企業事業主」の範囲は次のとおりです。
□小売業(飲食店を含む)
- 資本金の額・出資の総額 ⇒ 5,000万円以下
- 常時雇用する労働者の数 ⇒ 50人以下
□サービス業
- 資本金の額・出資の総額 ⇒ 5,000万円以下
- 常時雇用する労働者の数 ⇒ 100人以下
□卸売業
- 資本金の額・出資の総額 ⇒ 1億円以下
- 常時雇用する労働者の数 ⇒ 100人以下
□その他の業種
- 資本金の額・出資の総額 ⇒ 1億円以下
- 常時雇用する労働者の数 ⇒ 300人以下
2.支給額が増額
この助成金制度は、平成25年度に創設されてからたびたび複雑に変更(改正)が行われてきました。
たとえば中小企業の「正社員化コース」の場合の助成金額が、
平成28年2月の改正では一旦増額されましたが以降において
平成28年10月現在で
有期社員 → 正規社員60万円だったのが
平成29年4月1日以降は
有期社員 → 正規社員57万円、<72万円>
※<>は生産性の向上が認められる場合の額
と変わりました。
つまり、生産性が認められる場合は<60万円→72万円>の20%増額ですが、そうでない場合は、60万円 → 57万円の5%減額となったわけです。
※生産要件とは
助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年前に比べて6%以上伸びていること
計算式にすれば
生産性 =
(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数
となります。
3.正社員化コースの申請方法
【キャリアアップ管理者】
まず、キャリアアップに取り組む者として必要な知識と経験を有していると認められる「キャリアアップ管理者」を選ばなくてはなりません。
【「キャリアアップ計画」の作成・提出】
「キャリアアップ計画書」を作成して管轄労働局の「認定」を受けなければなりません。
参照:様式第1号
【就業規則、労働協約またはこれに準じるものに転換制度を規定】
企業内の就業規則等に正社員への転換制度を規定します。この場合、最低でも「試験等の手続き」、「対象者の要件」、「転換実施時期」は必須となります。
【試験等の実施】
転換・直接雇用に当たって、転換制度に規定した試験等を実際に行います。
【正規雇用等への転換・直接雇用の実施】
- 対象労働者に雇用契約書や労働条件通知書を交付しなければなりません。
- 実際に、転換後に適用される就業規則等に規定する労働条件・待遇にしなければなりません。
【転換後6か月分の賃金を支給してから支給申請を行う】
対象労働者に転換後6ヶ月分の賃金を支給してください。支給した日の翌日から起算して2ヶ月以内に労働局に「支給申請」をする必要があります。
【支給決定】
労働局より支給決定の通知を待ちます。
4.キャリアアップ助成金の注意点
- 自社の規模・体力に見合ったコースを選ぶ必要があります。
たとえば、前述の「生産要件の向上」に関しては、会社の決算書を用いなければなりません。会計が得意で時間のある経営者またはキャリアアアップ管理者ならよいでしょう。そうでない場合は、税理士や社会保険労務士に依頼しますので作業に係るそれなりの報酬が必要な場合もあります。それに見合うだけの助成金が見込まれるか自社に適したコースを十分に検討する必要があります。
この制度適用は1企業に1回です。 - 社会保険にきちんと加入していること。
- 対象労働者を助成金支給申請前に解雇しないこと。ただし自己都合による退職の場合は問題ありません。
- 出勤簿、賃金台帳、労働者名簿等の法定帳簿を備えていること。
- 労働保険料を滞納していないこと。
5.まとめ
このキャリアアップ助成金制度は、平成25年に創設されてから社会情勢の変化に応じてたびたび改正・改廃が行われています。改正があれば、各種数値の変更部分をチェックすることはもちろん重要なことです。
また、今後5年以上に渡って政府がこの制度を維持し続けるのか否かは予算などの関係上未知のものです。日々意識を向けておくことも重要です。