今や大きな社会問題になっている「パワハラ問題」。
職場において、パワハラに対する意識がここ数年一段と高まっています。その一方で、少しのことでも「それ、パワハラですよ。」と過剰反応する社員も増えています。
もし、社員が「パワハラで訴える!」と言い出したら、経営者としてどのような対応をすればいいのでしょうか?ここでは、もしパワハラで訴えられた場合の対応・対策について、また、今後の対策などについてまとめました。
目次
1.パワハラとは
まずは、パワハラの定義について確認したいと思います。
職場におけるパワハラとは、同じ職場で働いている者に対して、職務上での地位や人間関係等の「職場内における優位な立場」を利用し、「適正と判断される範囲」を超えて、精神的又は身体的な苦痛を与える行為をさします。
【職場内における優位な立場】
パワハラという言葉は、一般的には上司が部下に対して行ういじめや嫌がらせに対して使われることが多いですが、実は先輩・後輩間や同僚間のみならず、部下から上司に向けて行われているケースもあります。
「職場内における優位な立場」という言葉には、職務上での地位だけでなく、専門知識や経験など、様々な要素の優位性も含まれています。
【適正と判断される範囲】
業務上、一般的に適正と判断される範囲の指示や指導・注意は、パワハラには該当しません。上司は、業務上の指揮監督や教育指導をする権利や義務があり、上司としての役目を果たすことが求められています。
パワハラ対策をとる上で気を付けたいことは、上司の適正な指導・教育を妨げてしまうのではなく、「業務上適正と判断される範囲」について、明確にしていくことが重要だといえます。
2.もし訴えられた場合の3つの対応と対策
全国の労働局における労働関係の相談・申告で、最も多いのがパワハラとされています。もし、社員から「上司からパワハラを受けている!」との訴えがあった場合、会社としてどのような対応をとればいいのでしょうか?
パワハラ発覚時にとるべき3つの対応と対策をご紹介します。
2−1.事実関係を把握することが先決
社員からパワハラの相談や申告を受けた際、会社に求められるのは「速やかな対応」です。まず最初に行うのは、実態調査をして事実関係を確認することです。パワハラは、非常にデリケートな問題なので、慎重に進めることが大切です。
被害を受けた社員からの訴えがあった言動が、上司の業務上適正とされる範囲内での指導や注意だったのか、あるいはいじめや嫌がらせだったのかは判断が非常に難しいところです。そのため、同じ部署の社員にヒアリングを行ったり、メールの記録等も確認しながら事実関係を把握していく必要があります。
確認した結果、パワハラがあったと判断された場合、パワハラを行った上司の懲戒処分を検討しなければなりません。就業規則に基づいて、出勤停止などの処分を行い、他の部署への異動や、加害者が管理職であった場合は降格も検討する必要があります。
2−2.「適正な指導だった」と判断したら、毅然とした対応を
実態調査を行った結果、上司の言動がパワハラに該当せず、適正な指導・注意だったと判断した場合、会社は毅然とした対応をすることが大切です。労務に関する問題解決のためには、想像以上の時間や労力を要します。
労働基準監督署からの呼び出し要請があれば応じなければならない上に、書類を準備する必要もあります。被害を受けたと訴える社員は、労働基準監督署に訴えたり、それでも納得がいかなければ訴訟を起こす可能性もあります。
そこで、「請求された金額を払ってしまえば、手間も時間も要する労務問題を解決できる」と考えてしまいがちです。しかし、パワハラは今や大きな社会問題にもなっていて、社内の他の社員もそのパワハラ問題の行方について関心を持って見ているはずです。
金銭の請求にたやすく応じてしまうと、他の社員に「パワハラで訴えればお金を払ってくれる」という認識を持たれてしまう可能性も否定できません。パワハラの事実が無く、会社としても出来る限りのパワハラ対策を講じていたというような場合は、毅然とした対応を心がけるようにしましょう。
2−3.「法律のプロ」弁護士のサポートを
社内でパワハラがあった場合、会社の責任問題にも関わってきます。会社には「適切な職場環境を維持する義務」があるため、パワハラの事実を知りながらも指導・注意または社員の部署換え等の措置をとらなかった場合、安全配慮義務違反に該当し債務不履行の責任に問われる可能性があります。
また、被害者がパワハラが原因で鬱病を患い、訴訟を起こした場合、パワハラ加害者の社員のみならず、使用者責任を果たしていないということで会社も被害者から慰謝料を請求される可能性があります。慰謝料の額は、数年分の給与相当額になることが多いようです。
このように、会社としての責任問題になる可能性がある以上、弁護士に相談し、専門的な観点から的確なアドバイスをしてもらうのが最善策といえます。社内でのパワハラは、経営者にとっては大事な問題である一方で、なかなか見つけにくいものです。
適切な職場環境を維持していくためにも、労務分野に強い弁護士にサポートを依頼することを検討してみるのも一つの方法です。
3.今後ないように対策を・・
今後、パワハラ問題が起きないように、取り組んでいきたい対策をご紹介します。
【パワハラ問題の予防に向けて】
- 企業トップからのメッセージ
企業のトップから全社員に向けて、「職場からパワハラをなくすべき」との考えを明確に宣言する。 - パワハラについてのルールを設ける
就業規則にパワハラ関係の規定を設けたり、組合との協定を結んだり、パワハラ予防・解決のための方針やガイドラインを作成する。 - 実態調査をする
社員に向けてアンケートを行い、パワハラについての実態を調査するとともに、認識の度合いを測る。 - 研修会を開催する
管理職や一般社員を対象として、パワハラについての講演会や研修会を開催する。
【パワハラ問題の解決に向けて】
- パワハラ相談窓口の設置
企業内外にパワハラ相談窓口を設置したり、部署ごとにパワハラ対応の責任者を選定する。外部の専門家と連携をとるのも効果的。 - 再発防止
パワハラ加害者に対して、再発防止のための研修を行う。
これらの対策を形だけで終わらせないためにも、社員一人一人の取り組みも重要になってきます。そのためにはまず、企業のトップが「パワハラのない適正な組織づくりを目指す」という考えを明らかにし、自らが模範となってその姿勢を示すことが大切です。
ご参考までに、厚生労働省の「あかるい職場応援団」というサイトでは、パワハラに当てはまるとされる言動事例などが掲載されています。「この行為はパワハラに当たるのか?」と悩んだ時の参考になります。
◇あかるい職場応援団(https://no-pawahara.mhlw.go.jp/)
4.パワハラで訴えられた場合
自分ではパワハラをしていると意識せずにしていることでも、相手にとってはとても不快・恐怖に感じられてしまうことがあります。コミュニケーションの行き違いでありがちなのは、上司が部下に叱咤激励するつもりで少々熱く接してしまったことが、パワハラと捉えられてしまうことが多くみられます。
また、上司はあくまでも適正な範囲内での指導・注意をしたに過ぎないのに、パワハラに過剰反応してしまう部下も決して少なくないというのも現実です。このように、故意にパワハラをしていたわけではなくても、訴えられてしまう可能性があります。
もし、パワハラで訴えられてしまった場合、一番大事なことは「きちんと状況説明をする」ということです。業務を行っていくうえで必要な指導や注意であったことを、しっかりと説明しましょう。
その際、その場に居合わせた社員や自分を信頼してくれている部下などに証言してもらえると、非常に心強い上により効果的です。
5. まとめ
パワハラで訴えられた場合の対応・対策で、まず一番最初にするべきことは「事実関係を正確に把握すること」です。もし、パワハラがあったと判断した場合、加害者の社員には相応の懲戒処分を検討することになります。
また、パワハラの事実が無かったと判断した場合は、会社は毅然とした対応をとるように心がけましょう。
実際に社内にパワハラ問題が起きると、会社の責任問題にも関わってきます。そのため、労務に詳しい弁護士に相談し、的確なアドバイスを受けることが最善策といえます。
今後、パワハラ問題が起きないように、就業規則でパワハラ関連の規則を作成したり、研修会を開いたりなど、色々な対策を講じる必要があります。そして、経営者自らが「職場からパワハラをなくすべき」との考えを社員に向けて発し、自らが模範となることが求められます。