「パートやアルバイトで働く場合、社会保険に入らないといけないの?」という疑問がよく聞かれます。この疑問には、社会保険はフルタイムの人(正社員)だけが入るものといった認識からくるものだという認識が一般的だからではないでしょうか。
実はパート・アルバイトであっても社会保険に加入しなければならない場合があるのです。また、パートなのだけれど社会保険に加入したいと思う方もいるのではないでしょうか。今回はパートやアルバイトにおける社会保険加入の基本について説明していきます。
目次
1.社会保険とは
「社会保険」とは、「厚生年金保険」と「健康保険」を指します。広い意味での社会保険には、「労災保険」と「雇用保険」も含まれますが、通常社会保険といった場合は「厚生年金保険」と「健康保険」が対象です。厚生年金保険と健康保険は手厚い保険給付が備わっている公的制度です。
厚生年金は、公的年金制度です。原則65歳以上のリタイア世代のいわゆる年金とよばれている「老齢厚生年金」です。実はそれ以外に、被保険者期間中に障害を負われた方には「障害厚生年金」が、亡くなられた場合にはご遺族に「遺族厚生年金」が支給されます。厚生年金保険に加入すると、厚生年金保険の被保険者となるとともに、国民年金では第2号被保険者となります。この場合、保険料の負担は厚生年金保険料のみとなり、国民年金保険料は支払う必要はありません。
健康保険は、公的医療保険制度です。病院で受診等・薬局で薬剤購入したときに、保険証を窓口に提示すれば、支払金額が3割だけで済む「療養の給付」が一番なじみです。健康保険もそれ以外にも沢山の給付がある優れた制度なのです。
2.パート・アルバイトの社会保険は義務!?
皆さんは必ず何かしらの社会保険に加入しているはずです。実はパートやアルバイトが、社会保険に加入する前でも、年金制度面では「国民年金」に、医療保険制度面では「国民健康保険か医療保険制度の被扶養者」に既に加入しているのです。
パートやアルバイトの人が勤務先で社会保険に入るという話になると、一般的に年金制度からみると国民年金から厚生年金保険に加入、医療保険制度からみると国民健康保険か各医療保険制度の被扶養者から健康保険に加入ということを指しているのです。
2−1. 社会保険の加入条件
加入要件を考える際に、よく混同されがちなのが健康保険等の扶養認定です。パートやアルバイトの人の社会保険加入要件の中に、フルタイム(正社員)で働く方と労働時間を対比して考えるという点があります。
- ・パート・アルバイトの1日(又は1週間)の労働時間がおおむね4分の3以上
- ・パート・アルバイトの月の労働日数がおおむね4分の3以上
見ていただければお分かりの通り、2016年9月までの加入要件には「年収要件」がありませんでした。新法が施行される2016年10月以降も、500人以下の被保険者がいる事業所でお勤めの場合は、原則、年収要件はありません。つまり、今まで通り、労働時間と労働日数で判断します。
よく、社会保険の加入要件として「年収が130万円以上である」であるという認識をされている人がいますが、それは誤りなのです。たとえ年収100万円だったとしても、上記の要件を満たしていれば加入義務が発生するのです。おそらく、被扶養者の要件と混同しているためなのでしょう。
被扶養者要件の中には年収要件がありますが(いわゆる130万円の壁)、ここでは関係ありません。被扶養者になれるかどうかの年間の見込み収入130万円の要件は、28年10月の法改正では変わっていません。
尚、事業所には年金事務所による定期調査・臨時調査が行われ、労働契約書・タイムカード・賃金台帳・所得税の納付証明書(領収書)で加入漏れが無いかチェックされているのです。パートやアルバイトの労働時間と労働日数が上記の要件を満たしていれば、即時加入が求められるのです。
ブラック企業対策の一つとして、指導は年々厳しくなっています。加入できる年齢は、フルタイム・パート・アルバイト共通です。厚生年金保険は70歳になる前まで、健康保険は75歳になる前まで加入できます。
尚、原則、お勤め先が厚生年金保険・健康保険の適用を受けていることが前提です。しかし法人の事業所(法人は株式会社・有限会社・医療法人・社会福祉法人など)であれば、必ず適用を受けなければいけない事業所です。適用事業所でなければ違法の会社ということです。
これは業種や規模は関係ありません。個人事業主の下で働いている場合は、常時働いている人が5人以上いないと適用の義務はありません。ですから、例として従業員が3人の個人商店は適用を受けなくてもいいのです。個人事業主は規模が小さいため、保険料負担が難しいので、加入している割合は低いのが現状です。
2−2. 手続方法
【手続きの時期】
加入義務の事実発生から5日以内
【 提出先 】
事業所の所在地を管轄する年金事務所
*実際に事業を行っている事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合は、実際に事業を行っている事業所の所在地を管轄する年金事務所になります。
【 提出方法 】
電子申請、郵送もしくは窓口持参
【 提出書類 】
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
健康保険被扶養者 (異動) 届
こちらからダウンロードできます。
http://www.nenkin.go.jp/shinsei/ichiran.html
2−3. 社会保険はいくら(保険料の試算)
健康保険・厚生年金保険の保険料は、「標準報酬月額×保険料率」という式で算出されます。標準報酬月額とは、保険料を計算する上で使われる仮の月単位の給料額でして、例えば月の給料が9万円の場合、標準報酬月額は「88,000円」と定まります。この金額に保険料率を乗じます。
保険料率についてですが、保険料は会社と従業員がそれぞれ折半して負担しますので、保険料率も半分にして考えます。厚生年金保険の保険料率は、28年9月から18.182%となりました。よって、半分の9.091%が保険料率となります。
健康保険の保険料率は、都道府県ごとに異なります。東京都の場合は28年3月から9.96%なので、半分にすると4.98%です。40歳以上65歳未満の人だと介護保険料も徴収されるので、その場合は11.54%の半分である5.77%の負担が必要です。
まとめると次の表となります。
健康保険料 | 介護保険料 (40歳以上65歳未満) |
厚生年金保険料 | |
---|---|---|---|
月給9万円 (標準報酬月額 88,000円) |
4,382円 | 695円 | 8,001円 |
月給10万円 (同上 98,000円) |
4,880円 | 775円 | 8,909円 |
月給11万円 (同上 110,000円) |
5,478円 | 869円 | 10,000円 |
3.未加入だとどうなる?
社会保険は法人の場合、いかなる場合も加入しなければなりません。たとえ従業員が自分だけの事業所であっても、法人であれば社会保険の加入義務が生じてきます。では、社会保険に未加入の場合の罰則とはどのようなものでしょうか?
社会保険料未加入の場合、未払い分に関して、過去2年間分は追徴金が生じます。一般的に社会保険の費用は会社と従業員で折半することになっておりますが、もし従業員が退職していて、その後に罰則を受けることになった場合などは会社が追徴金を全て負担することになります。また、保険料も延滞金があり、支払い金額はルール通り支払っていた場合よりも大きくなります。
また、追徴金だけでなく、健康保険法の罰則として、6ヶ月以下の懲役や50万円以下の罰金を科されることもあります。追徴金だけでなく、厳しい罰則を受けるため、経営者(起業家)にとって社会保険が未加入であるリスクは非常に高いといえるでしょう。
4.まとめ
保険料の負担は働く方には少々重荷ですが、もしもの時や老後に備えて社会保険に加入することには大いにメリットがあります。民間保険より手厚い内容なのです。
経営者にとっては、保険料負担は痛いでしょうが、CSRの観点からもパート・アルバイトの社会保険の資格取得は正しく運用すべきと考えます。