「平均賃金」は、従業員に法令で定められている諸手当や補償を算定する場合、または減給制裁を行う場合などに算定する必要があるものです。平均賃金は、従業員の生活を保障するために必要なものであるため、経営者としてもしっかりと理解しておきたいところです。
ここでは、平均賃金の計算方法について
- 平均賃金の計算が必要になるとき
- 平均賃金の原則的な計算方法と例外的な計算方法
- 計算上注意すべき点
などを中心にモデルケースを用いて解説していきます。
目次
1.平均賃金の計算が必要となるのはこんな時!
平均賃金とは、労働基準法で「これを算定すべき事由の発生した日以前3ヶ月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」と定められています。
そして、この平均賃金の計算が必要となるのは、主に次の5つの場面があります。
- 解雇予告手当
- 使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合に支払われる休業手当
- 年次有給休暇の日について支払われる賃金
- 労働災害の補償
- 減給の制裁を行う場合の制限額の算定
では、これらのケースで計算する平均賃金はどのように計算されるのか、次章で解説していきます。
2.平均賃金の計算方法をわかりやすく解説!
平均賃金は、従業員の生活を保障するために必要なものであるため、通常の生活賃金の状態を考慮して算定することが基本となります。平均賃金の計算では、原則的な計算方法の他に、日給や時間給制、出来高払い制などの例外的なケースの計算方法がありますので、それぞれ解説していきます。
2−1.まずは原則の計算方法
前章でも触れましたが、平均賃金は、算定しなければならない事由の発生した日以前3ヶ月間に、その労働者に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除した金額となります。
平均賃金額=直前3ヶ月間の賃金総額/3ヶ月間の総日数
【算定事由発生日とは】
算定において「算定事由発生日」が重要になりますが、それぞれ次のようになります。
- 解雇予告手当:従業員に解雇通告した日
- 休業手当 :休業初日
- 年次有給休暇:当該年次有給休暇の日
- 災害補償 :死傷の原因となる事故発生日または診断により疾病の発生が確定した日
- 減給の制裁 :制裁の意思表示が従業員に到達した日
【以前3ヶ月間とは】
平均賃金の算定期間に「以前3ヶ月間」とありますが、これは算定事由の発生日の前日からさかのぼって3ヶ月間をさし、事由発生日は含まれません。
【平均賃金の算定から除外するもの】
平均賃金の算定期間に次の5つの期間が含まれる場合は、その日数・賃金額は、賃金総額から除外します。これらの期間を含めてしまうと、平均賃金額が従業員の通常の生活費用よりも低くなってしまうためです。
- 業務上の負傷、または疾病により療養休業した期間
- 産前産後休業期間
- 事業主の責めに帰すべき事由によって休業した期間
- 育児休業・介護休業期間
- 試用期間
2−2.例外!日給や時間給制、出来高払い制の場合
従業員の中には、月給ではなく日給や時間給、出来高払いなどの給与支払い方法をとっている人もいるでしょう。
日給や時間給で給与が支払われている従業員の場合、原則的な計算方法で平均賃金を計算してしまうと、例えば年末年始や夏季休暇(お盆休暇)など休日が多い月の場合、平均賃金額が減少してしまう可能性があります。
欠勤してしまった場合はともかくとして、休日は従業員のせいではないため、算定期間に休日の多い月が入っていると従業員にとって大変な不利益になってしまいます。そのため、労働基準法では平均賃金に「最低保障額」を定めています。
最低保障額の計算方法は、算定期間については原則的な計算方法と同じですが、その期間に支払った賃金が日給や時間給の場合、「その総額を実際に労働した日で除した金額の60%」を最低保障額とすると定められています。
そして、原則的な計算方法で算出した平均賃金と最低保障額での平均賃金を比較して、金額の高い方を適用します。文章ではなかなか理解しづらいと思いますので、後ほどモデルケースを用いて解説していきます。
3.平均賃金についての注意点
平均賃金を算出する上で注意すべき点があります。実際に計算してみると端数が出ることが多く、その処理方法に迷うことがあります。端数処理はややこしい部分ではありますが、詳しく解説しますのでしっかりと理解しておきましょう。
また、算定に用いる「賃金」は算定期間中に支払われた賃金になりますが、中には算定に含まれない賃金もありますので注意が必要です。
3−1.端数処理はどうなる
平均賃金額の計算方法は、「直前3ヶ月間の賃金総額/3ヶ月間の総日数」であることはすでに述べました。実際にこの式に当てはめて平均賃金額を算出すると端数が出ることがあり、その処理方法に悩む方は少なくありません。
1日の平均賃金を算出した際に、銭未満の端数が出た時にはこれを切り捨てます。(S22.11.5 基発第232号)
例えば計算した結果「4,500.6666・・・・」となった場合、平均賃金額は4,500円66銭」になります。
また、有給休暇3日分を計算する場合は
4,500円66銭×3日=13,501円98銭
となりますが、ここでの端数処理は円未満の端数を四捨五入します。
よって、13,501円98銭→13,502円となります。
3−2.通勤手当や慶弔手当、住宅手当は?
平均賃金の算定に用いる「賃金」は、算定期間中に支払われた賃金のすべてが含まれますので、例えば通勤手当、皆勤手当、住宅手当、家族手当、有給休暇の賃金、通勤定期券代金、昼食補助なども含まれることになります。
また、実際に支払われた賃金だけではなく、支払いが遅れている未払い賃金も含まれることになり、6ヶ月定期券を購入した場合には1ヶ月に支払われた分を計算して算定します。
しかし、次に挙げる賃金は算定する賃金には含まれませんので注意が必要です。
- 臨時に支払われた賃金(慶弔手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金など)
- 3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 法令や労働協約で定められていない現物支給
4. モデルケースで解説!平均賃金の計算方法
では実際にモデルケースを用いて平均賃金の算出方法をみていきましょう。月給制の場合と日給・時間給制の場合の2つのケースについて解説していきます。
算定期間 | 4月1日~30日 | 5月1日~31日 | 6月1日~30日 |
---|---|---|---|
総日数 | 30日 | 31日 | 30日 |
給与 | 220,000円 | 205,000円 | 210,000円 |
表より、
- 賃金総額=220,000円+205,000円+210,000円=635,000円
- 総日数=30日+31日+30日=91日
- 平均賃金=635,000円÷91日=6,978.02円(銭未満切り捨て)
よって、平均賃金は6,978.02円となります。求めた平均賃金を元に、有給休暇の賃金や解雇予告手当の計算を行います。
例えば、30日分の解雇予告手当を計算する場合は
6,978.02円×30日=209,340.6円
となりますが、円未満の端数は四捨五入しますので209,341円となります。
算定期間 | 4月1日~30日 | 5月1日~31日 | 6月1日~30日 |
---|---|---|---|
総日数 | 30日 | 31日 | 30日 |
労働日数 | 17日 | 15日 | 16日 |
給与 | 68,000円 | 60,000円 | 64,000円 |
表より、
- 賃金総額=68,000円+60,000円+64,000円=192,000円
- 総日数=30日+31日+30日=91日
- 労働日数=48日
- 平均賃金
- 原則的な計算方法:192,000円÷91日=2,109.89円(銭未満切り捨て)
- 最低保障額:192,000円÷48日×6=2,400円
- と②を比べると②の方が金額が大きいため、②の2,400円を適用します。
具体的なモデルケースで解説しましたがいかがでしたでしょうか。
日給・時間給の場合は原則的な計算方法と最低保障額の計算を行い、より高額な方を適用することになりますので注意しましょう。
5.まとめ
従業員に有給休暇の給与や解雇予告手当を支払ったり、減給制裁を行う場合など、平均賃金が必要になる場面は少なくありません。
月給制の従業員は原則的な計算方法を採用しますが、日給・月給制の従業員の場合は休日数などに大きな影響を受け不利益を被ることがありますので最低保障額も考慮して算出することが大切です。
平均賃金は従業員の生活を保障する上で重要なものですので、経営者も計算方法や注意点などについてしっかりと把握しておくことが求められます。